「この家は将来、子どもに渡すつもりです。それなら、元気なうちに名義を変えておいた方がいいですよね?」
不動産の生前贈与を考えている方から、よくいただくご相談です。
たしかに、親が元気なうちに子どもの名義に変えておけば、将来の相続手続きが楽になりそうに思えます。
ただ、「どうせ子どもに渡すなら、今のうちに贈与しておこう」と決めてしまうのは少し待ってください。
不動産の名義を生前贈与で変更すると、贈与税だけでなく、登録免許税や不動産取得税もかかります。
一方、相続によって名義を変更する場合は、これらの負担が大きく異なります。
そのため、「将来は子どもに渡したい」というだけなら、生前贈与より相続の方が負担を抑えられるケースは少なくありません。
では、どれくらい違うのでしょうか。
生前贈与と相続では、何が違う?
不動産を親から子どもへ移す方法として、代表的なのが「生前贈与」と「相続」です。
どちらも最終的には子どもが不動産を取得しますが、名義変更のタイミングが違うだけで、かかる税金が変わってきます。
大きな違いは次の3つです。
- 登録免許税
- 不動産取得税
- 贈与税・相続税
特に差が出やすいのが、登録免許税と不動産取得税です。

登録免許税は相続の方が安い
不動産の名義を変更する際には、原則として登録免許税がかかります。
生前贈与の場合、所有権移転登記の登録免許税は、不動産の固定資産評価額に対して原則2%です。
一方、相続による所有権移転登記は原則0.4%です。
たとえば、固定資産評価額が1,000万円の不動産なら、
生前贈与:約20万円
相続:約4万円
となります。
同じ不動産を子どもに渡す場合でも、登録免許税だけで16万円の差が出ます。
※一定の土地については、現在、相続登記の登録免許税が免税となる特例もあります。
不動産取得税も大きな違い
もう一つ見落としやすいのが不動産取得税です。
不動産を生前贈与すると、原則として不動産取得税の対象になります。
税率は原則4%ですが、土地や住宅については、2027年(令和9年)3月31日までに取得した場合、3%に軽減される特例があります。
また、宅地については、同じく2027年(令和9年)3月31日まで、課税標準を価格の2分の1とする特例があります。
さらに、一定の要件を満たす住宅や住宅用土地については、評価額からの控除や税額の減額など、別の軽減措置が適用される場合があります。
そのため、不動産取得税は「評価額×4%」で単純に計算できるものではありません。
一方、相続による不動産の取得については、原則として不動産取得税は課税されません。
そのため、
生前贈与=登録免許税+不動産取得税
相続=通常は登録免許税
という違いが出てきます。
たとえば固定資産評価額1,000万円の不動産で比較すると、軽減措置を考慮しない単純計算では、
- 生前贈与:登録免許税20万円+不動産取得税40万円(合計約60万円)
- 相続:登録免許税4万円+不動産取得税0円(合計約4万円)
となります。
ただし、実際の不動産取得税は、土地・住宅の軽減措置や住宅用土地の減額などによって大きく変わることがあります。
それでも、登録免許税の税率や不動産取得税の有無を考えると、「名義を変えるだけなら相続の方が負担を抑えやすい」というケースは多いといえます。
贈与税は177万円になることも
生前贈与では、登録免許税や不動産取得税だけでなく、贈与税にも注意が必要です。
たとえば、親から18歳以上の子どもへ、贈与税の評価額が1,000万円の不動産を贈与したとします。
暦年課税では、年間110万円の基礎控除があります。
そのため、
1,000万円 − 110万円 = 890万円
が課税価格となります。
この890万円について、18歳以上の子どもへの「特例贈与財産」として贈与税を計算すると、贈与税は177万円です。
つまり、生前贈与では、
- 贈与税
- 登録免許税
- 不動産取得税
という3つの負担を考える必要があります。
ただし、実際の贈与税は、不動産の固定資産評価額をそのまま使うとは限りません。
不動産の種類などによって評価方法が異なるため、ここでは「贈与税の評価額が1,000万円だった場合」の例として考えています。
相続なら相続税はかからない?
一方、相続の場合はどうでしょうか。
「不動産が1,000万円なら、相続税はかからない」と単純に考えることはできません。
相続税は、不動産だけではなく、預貯金や株式などを含めた相続財産全体で計算します。
ただし、相続税には、
3,000万円+600万円×法定相続人の数
という基礎控除があります。
たとえば、法定相続人が2人なら、基礎控除は4,200万円です。
相続財産全体が基礎控除の範囲内であれば、原則として相続税はかかりません。
そのため、相続税については、不動産だけではなく、預貯金などを含めた財産全体を確認する必要があります。
相続時精算課税ならどうなる?
「2,500万円までなら贈与税がかからない」と聞いて、相続時精算課税を検討する方もいます。
現在の相続時精算課税には、年間110万円の基礎控除と、累計2,500万円の特別控除があります。
この2つは別枠です。
たとえば、相続時精算課税を選択している場合、その年の贈与についてまず110万円の基礎控除を差し引き、そのうえで残った金額について2,500万円の特別控除を利用できます。
ただし、相続時精算課税は「2,500万円まで完全に非課税になる制度」というわけではありません。
相続時精算課税を利用して贈与した財産は、原則として、その贈与をした人が亡くなったときの相続税の計算に加算されます。
もっとも、令和6年1月1日以後の贈与については、相続時精算課税にも年間110万円の基礎控除が設けられており、この基礎控除に相当する部分については、相続税の課税価格への加算についても従来とは異なる取り扱いがあります。
また、一度相続時精算課税を選択すると、その贈与者からの贈与については、後から暦年課税に戻すことはできません。
そのため、
「2,500万円まで使えるから、とりあえず相続時精算課税にしておこう」
と決めるのではなく、将来の相続税まで含めて考える必要があります。
では、生前贈与をする意味はない?
ここは誤解しないでください。
「相続の方が費用を安く抑えやすい」ということと、「生前贈与をする必要がない」ということは別の話です。
たとえば、
- 特定の子どもに不動産を確実に渡したい
- 親が元気なうちに不動産の承継を決めておきたい
- 将来の相続税について対策を考えている
- 子どもに今すぐ不動産を使わせたい
- 将来の家族間の争いを防ぐため、財産の渡し方を早めに決めておきたい
という事情があるなら、生前贈与を検討する意味があります。
つまり、判断するときに大切なのは、
「生前贈与と相続のどちらが安いか」だけではありません。
「なぜ今、名義を変えたいのか」まで考える必要があります。

「認知症になる前に名義を変えたい」なら?
生前贈与を考える理由として、認知症への不安があります。
「親が認知症になったら不動産を売れなくなると聞いた。だったら、元気なうちに子どもの名義に変えておこう」
という考え方です。
たしかに、判断能力が低下すると、不動産の売却や贈与などが難しくなる場合があります。
しかし、認知症対策のために必ず生前贈与をしなければならないわけではありません。
家族信託や任意後見など、名義を変更する以外の方法もあります。
家族信託
親が元気なうちに、子どもなどの家族に不動産の管理や処分を任せる仕組みです。
たとえば、
「将来、自分で判断することが難しくなったら、この自宅を売却して介護施設の入居費に充てたい」
という希望がある場合、家族信託を利用することで、こうした将来の管理・処分に備えられる場合があります。
任意後見
将来、判断能力が低下した場合に備えて、あらかじめ自分で後見人を選んでおく制度です。
財産管理や契約などについて、将来の備えをしておきたい場合に検討できます。
つまり、
「認知症が心配だから、今すぐ不動産を子どもの名義に変える」
という一つの方法だけで考える必要はありません。
相続まで待つなら、相続登記は忘れずに
「生前贈与はせず、相続のときに名義を変えればいい」
という選択をする場合も、相続後の手続きを忘れてはいけません。
令和6年4月1日から相続登記が義務化され、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に登記申請をする必要があります。
正当な理由なく申請を怠った場合、10万円以下の過料の対象となる可能性があります。
「相続のときに名義変更する」というのは、何もしないという意味ではありません。
相続が発生したら、遺産分割協議などを行ったうえで、期限内に相続登記まで進める必要があります。
生前贈与と相続、どちらを選べばいい?
ここまで見てきたように、「将来は子どもに渡したい」というだけなら、生前贈与を急ぐ必要はありません。
登録免許税や不動産取得税、さらに贈与税まで考えると、相続によって名義を変更する方が負担を抑えられるケースは多くあります。
一方で、
「この子に不動産を渡したい」
「認知症になる前に管理方法を決めておきたい」
「相続税も含めて考えたい」
「子どもが複数いるので、将来もめないようにしておきたい」
という事情があるなら、単純に「相続まで待つ」と決めるのも適切とは限りません。
生前贈与、遺言、家族信託、任意後見など、それぞれに向いている場面があります。
「とりあえず贈与」はしない方がいい
不動産は、一度名義を移してしまうと、あとから元に戻すのも簡単ではありません。
だからこそ、
「子どもに渡すつもりだから、今のうちに名義を変えておこう」
と決める前に、一度立ち止まって考えてみてください。
その不動産を、
- 誰に渡したいのか
- いつ渡したいのか
- 親が亡くなるまで誰が使うのか
- 将来売却する可能性があるのか
- 預貯金など、ほかの財産がどれくらいあるのか
- 子どもが複数いる場合、どのように分けるのか
ここまで整理すると、生前贈与が適しているのか、それとも相続まで待つ方がいいのかが見えてきます。
生前贈与をする前に、一度ご相談ください
「親の不動産を子どもに渡したいけれど、贈与と相続のどちらがいいのか分からない」
という段階でも、相談していただいて構いません。
不動産の固定資産評価額や家族構成、ほかの財産の状況などを確認しながら、生前贈与をした場合と相続まで待った場合で、どのような違いがあるのかを整理することが大切です。
後藤司法書士事務所では、単に「贈与しましょう」「相続まで待ちましょう」と決めるのではなく、その不動産を将来どうしたいのかを伺ったうえで、名義変更の方法や必要な手続きを一緒に整理しています。
「生前贈与を考えているけれど、本当に今名義を変えるべきなのか?」
そんな段階からでも大丈夫です。
「子どもに不動産を渡したいけれど、贈与と相続のどちらがいいのか知りたい」
という方は、お気軽にご相談ください。