「もし認知症になったら、自分の預金は誰が管理してくれるのだろう。」
「入院や施設入所の手続きは誰がしてくれるのだろう。」
配偶者や子どもがいない「おひとりさま」の場合、このような不安を抱える方は少なくありません。今は元気に自分のことは自分でできていても、将来、判断能力が低下したときのことを考えると、心配になるのも当然です。
実は、こうした「おひとりさま」こそ、任意後見を検討する優先度が高いと言えます。この記事では、その理由を具体的に解説します。
そもそも任意後見とは
任意後見とは、将来もし認知症などで判断能力が低下したときに備えて、あらかじめ信頼できる人に財産管理や生活面のサポートを任せておく契約です。
判断能力があるうちに、公正証書で契約を結んでおきます。実際に判断能力が低下し、家庭裁判所が「任意後見監督人」を選任した時点で、初めて契約の効力が発生し、任意後見人が活動を始めます。「今の自分が、将来の自分のために、あらかじめ後見人と契約しておく制度」とイメージすると分かりやすいと思います。
「誰かが気づいてくれる」が、おひとりさまには通用しない
配偶者や子どもと同居している方の場合、判断能力の低下は、日々の生活の中で家族が気づくことがほとんどです。「最近、様子がおかしい」と感じた家族が、成年後見制度の申し立てを検討する、という流れが自然に生まれます。
しかし、一人暮らしのおひとりさまの場合、この「気づいてくれる人」がいません。判断能力の低下がかなり進んでから、近所の方や民生委員が異変に気づいて発覚する、というケースも珍しくないのです。
さらに、成年後見制度の申し立てができるのは、本人や配偶者、四親等内の親族など、法律で定められた人に限られています。身寄りが乏しいおひとりさまの場合、申し立てをしてくれる人がそもそもいないという事態も起こり得ます。この場合、最終的には市区町村長が申し立てを行う制度もありますが、実際に手続きが進むまでには時間がかかり、その間、必要な支援を受けられない期間が生じてしまいます。

「誰に頼るか」を、自分で決められないリスク
もう一つの大きな問題は、判断能力が低下してから成年後見(法定後見)を利用する場合、後見人を選ぶのは家庭裁判所であるという点です。
配偶者や子どもがいれば、「せめて家族に」という選択肢がありますが、おひとりさまの場合、面識のない専門家が後見人として選任される可能性がさらに高くなります。もちろん専門家が後見人になること自体は悪いことではありませんが、「どんな人が自分の財産を管理するのか、自分では選べない」という点は、大きな不安要素になり得ます。
任意後見であれば、この点をあらかじめ解消できます。信頼できる友人や、長年付き合いのある専門家など、自分が「この人になら任せられる」と思える相手を、判断能力があるうちに自分で選んでおくことができるのです。
おひとりさまが直面しやすい、具体的な困りごと
任意後見を検討する際、おひとりさまの場合は特に、次のような場面を想定しておく必要があります。
- 入院・手術の際に対応に困る:病院や施設から緊急連絡先や身元保証人を求められることがあり、対応に困るケースがあります。
- 施設入所の契約を代わりにしてくれる人がいない:判断能力が低下した後、自分で施設との契約を結ぶことができなくなります。
- 孤独死のリスクと、その後の対応:万が一のことがあった場合、遺体の引き取りや葬儀、家財の整理、賃貸住宅の解約などを、誰が担うのかという問題が残ります。
任意後見はあくまで「生きている間」の財産管理・身上監護を担う制度なので、最後の「亡くなった後の事務」までは対象に含まれません。ここをカバーするには、「死後事務委任契約」を別途結んでおく必要があります。特に、おひとりさまの場合は、任意後見契約だけでは亡くなった後の対応まで準備できないため、死後事務委任契約もあわせて検討するケースがあります。
また、任意後見にはこのほかにも限界があります。任意後見人は、手術や延命治療などの医療行為への同意はできません。医療同意はあくまで本人固有の権利とされているためです。同様に、任意後見人の役割には、病院や施設の身元保証人になることは含まれていません。そのため、任意後見契約を結んでいても、別途、身元保証や緊急連絡先の問題を考えておく必要があります。「任意後見さえ契約すれば、身の回りのことはすべて解決する」わけではない、という点は正しく理解しておく必要があります。
判断能力が低下する前の期間も、見守り契約でカバーする
任意後見は、判断能力が低下してから初めて効力が生じる制度です。つまり、「今はまだ元気だけれど、たまに連絡を取って様子を見てほしい」という段階では、任意後見だけでは対応できません。
この空白期間を埋めるのが「見守り契約」です。定期的な電話連絡や訪問を通じて、契約相手が本人の状態を確認し、判断能力の低下が見られた時点で、速やかに任意後見の手続きに移行できるようにしておきます。
おひとりさまの場合、この見守り契約の重要性は、家族と同居している方よりも高くなります。日常的に様子を気にかけてくれる家族がいない分、契約という形で「見守ってくれる人」をあらかじめ確保しておく意味は大きいといえます。
費用の面での注意点
任意後見が始まると、家庭裁判所が選任する「任意後見監督人」への報酬が、本人が亡くなるまで継続的に発生します。任意後見監督人の報酬は、管理する財産額などによって異なりますが、一般的には月額1万円〜3万円程度が目安とされています。
これに加えて、見守り契約や死後事務委任契約を別途結ぶ場合は、それぞれの契約に応じた費用も発生します。「後で必要になったときに考えよう」ではなく、どこまでの備えが必要かを最初にまとめて整理しておくと、費用面でも見通しを立てやすくなります。
まとめ
おひとりさまは、判断能力の低下に気づいてくれる人が身近にいないこと、そして法定後見になった場合に後見人を自分で選べないことという、二重のリスクを抱えています。
任意後見は、「将来、自分のことを任せる人を自分で決めておく」ための制度です。
特におひとりさまの場合、判断能力が低下した後に備えるだけでなく、見守り契約や死後事務委任契約も含めて、自分らしい老後をどう支えるかを元気なうちに考えておくことが大切です。
おひとりさまの老後への備えは、財産状況や親族関係、希望する生活によって必要な準備が変わります。
ご自身に必要な制度を確認し、無理のない形で備えておくことが大切です。