「叔母が入院したので、代わりに手続きをしてほしい」
先日、こんな相談がありました。
相談者の叔母は一人暮らしで、これまで大きな病気もなく過ごしてきました。
ところが急に入院することになり、病院から「身元保証人と、緊急時の連絡先が必要です」と言われた。
叔母には配偶者も子どももいません。
一番近い親族が、めったに会っていなかった姪であるこの相談者だったのです。
「まさか自分が呼ばれるとは思っていなかった」
相談者はそう話していました。
結局、叔母は無事に退院できましたが、この一件をきっかけに、「次に何かあったときのために」と、任意後見契約について考え始めています。
一人暮らしの終活で考えておきたいのは、亡くなった後のことだけではありません。
病気やけがで自分では動けなくなったとき、判断能力が低下したとき、そして亡くなった後。
それぞれの場面で「誰に何を頼むのか」を、元気なうちに決めておくことが大切です。
① 財産を誰に管理してもらうか
判断能力が低下すると、預貯金の管理や不動産の売却を自分の意思だけで行うことが難しくなります。
「親族に頼めばいい」と思っていても、家族というだけで当然に代わりに財産を処分できるわけではありません。
元気なうちに任意後見契約を結んでおけば、将来判断能力が低下したときに、財産管理を任せる人を自分であらかじめ決めておけます。
② 自宅をどうするか
「できるだけ長く自宅で暮らしたい」方もいれば、「施設に入ることになったら売却したい」方もいます。
問題は、判断能力が低下した後は、本人はもちろん家族も自由に売却できなくなるという点です。
成年後見人がついた場合でも、本人が住んでいた不動産を売却するには家庭裁判所の許可が必要になり、時間がかかることがあります。
「施設の入居金の支払いに間に合わない」という事態も起こり得るため、将来の希望があるなら、元気なうちに周囲に伝え、必要に応じて任意後見なども検討しておく必要があります。
③ 入院や施設入所のとき、誰に頼むか
冒頭の叔母のケースのように、入院には身元保証人や緊急連絡先が必要になることがほとんどです。
入院手続き、施設への入所手続き、生活に必要な契約や支払い、留守中の自宅の管理。
近くに頼れる親族がいれば対応してもらえますが、遠方に住んでいたり、頼れる人が少なかったりする場合には、あらかじめ決めておく必要があります。
任意後見契約では、こうした生活面の法律行為についても代理権を設定しておくことができます。
④ 亡くなった後の手続きを誰に頼むか
亡くなった後は、葬儀や納骨だけでなく、公共料金や携帯電話の解約、自宅の荷物の整理、賃貸なら部屋の明渡しなど、やることが一気に増えます。
叔母のケースでも、相談者は「もし亡くなったらどこまで自分がやることになるのか」と不安を口にしていました。
賃貸物件であれば、明渡しが遅れるほど家賃が発生し続けることもあり、対応する人にとっても時間的な負担が小さくありません。
身寄りが少ない方や親族が遠方の方は、こうした死後の事務を第三者に依頼できる死後事務委任契約を検討しておくと、任される側の負担も軽くなります。

⑤ 財産の内容を整理しておく
預貯金口座、証券口座、不動産、生命保険。
自分では把握していても、亡くなった後に家族がすぐ分かるとは限りません。
特にスマートフォンの中にしか情報がないネット証券やネット銀行は、存在そのものに気づかれないことがあります。
家族がいれば通帳や郵便物から少しずつ判明することもありますが、一人暮らしで気づく人が身近にいない場合、財産そのものが埋もれてしまうおそれもあります。
パスワードまで渡す必要はなくても、「何を持っているか」の一覧だけでも作っておくと、残された人の負担がかなり変わります。
⑥ 財産を誰に残すか
配偶者も子どももいない場合、相続人は親や兄弟姉妹になります。
さらに、その兄弟姉妹がすでに亡くなっていれば、甥や姪にまで相続人が広がることもあります。
先ほどの叔母のケースも、もし本人に何かあれば、めったに会っていなかった相談者を含む甥姪数人が相続人になる可能性がありました。
法律で決まった相続人だからといって、必ずしも本人の希望に沿った人にすべて渡るとは限りません。
「疎遠になっている親族に法定相続分どおり渡るより、お世話になった人に残したい」
という希望があるなら、遺言書を作成しておく方法があります。
⑦ 自分の希望を誰かに伝えておく
どこで暮らしたいか、介護が必要になったらどうしたいか、葬儀や納骨に希望はあるか。
こうした希望は、書類だけですべて決められるものではありません。
信頼できる人に話しておくだけでも、いざというときの判断材料になります。
一人暮らしだからこそ「誰に頼むか」を決めておく
一人暮らしの終活で大切なのは、物を処分することだけではありません。
判断能力が低下したときの財産管理なら任意後見。
財産の管理や処分を家族に託したいなら家族信託。
亡くなった後の各種手続きなら死後事務委任。
財産を誰に残すかを決めるなら遺言書。
すべてを準備する必要はありません。
7つのうち、自分に関係がありそうなものだけを選んで考えるだけでも十分です。
冒頭の相談者のように、突然「頼む相手」に指名される親族の負担を考えると、備えは本人のためだけでなく、周りの人のためでもあります。
「まだ元気だから」と後回しにせず、元気な今だからこそ、自分で決められることを一つずつ整理してみてください。
高砂市・加古川市で、一人暮らしの終活、遺言、任意後見、家族信託、死後事務委任などについてお考えの方は、後藤司法書士事務所にご相談ください。