「うちの親、口座がいくつあるのか分からないんです」
相続の相談で、こう切り出す方がいます。
親が亡くなり、遺品を整理していたら、聞いたことのない銀行の通帳が出てきた。
証券会社からの郵便物もあるが、パスワードが分からず、ネット上の口座なのか、担当者がいるのか、それすら確認できない。
結局、金融機関を一つずつ問い合わせて回ることになり、相続の手続きが終わるまでに半年以上かかった、というケースもあります。
この方の親は、生前「子どもには迷惑をかけたくない」とよく話していたそうです。
けれど、その気持ちと、実際に子どもが直面したことの間には、少し距離がありました。
子どもに迷惑をかけないためには、具体的に何を準備しておけばいいのでしょうか。
財産を整理することだけではありません。
自分で判断できなくなったとき、入院や施設への入所が必要になったとき、そして亡くなった後。
それぞれの場面で「誰に何を任せるのか」を決めておくことが大切です。
認知症になったら、子どもが代わりに手続きできる?
親が認知症になり、銀行口座の管理や自宅の売却が必要になったとします。
「子どもなんだから、代わりに手続きできるだろう」と思うかもしれません。
しかし、親子だからという理由だけで、子どもが親の財産を自由に管理・処分できるわけではありません。
判断能力が低下した後に財産管理が必要になれば、家庭裁判所に申し立てて成年後見人を選んでもらう必要が出てきます。
一方、元気なうちに任意後見契約を結んでおけば、将来に備えて、財産管理などを任せる人を自分で決めておくことができます。
「子どもに任せたい」と思っているなら、その子どもが実際に動けるように、元気なうちから準備しておくことが大切です。
「施設に入ることになったら、自宅はどうする?」
もう一つ、子どもが困りやすいのが自宅です。
親が施設に入ることになり、「空き家になった実家を売って費用に充てたい」というケースがあります。
ところが、その時点で親の判断能力が低下していると、子どもが勝手に自宅を売ることはできません。
成年後見人がついたとしても、本人が住んでいた不動産を売却するには、原則として家庭裁判所の許可が必要になり、それだけ時間もかかります。
施設に入ってから「家をどうするか」を考えるのではなく、将来売るのかどうか、誰に手続きを任せるのかというところまで、元気なうちに話しておくことが大切です。
亡くなった後の手続きも、子どもの負担になる
親が亡くなった後にも、葬儀や納骨、自宅の片付け、公共料金や携帯電話の解約、賃貸なら明渡し、介護施設の契約終了、遺品整理、相続手続きと、やることが一気に押し寄せます。
子ども自身も悲しみの中にいるタイミングで、これらを次々こなさなければなりません。
「自分が死んだ後のことだから、子どもに任せればいい」ではなく、誰に何を頼むのかをあらかじめ決めておくことで、子どもの負担を具体的に減らせます。
亡くなった後の事務手続きを第三者に任せておく方法として、死後事務委任契約があります。

財産が分からないことも、子どもの負担になる
冒頭の相談者のように、「親がどこの銀行に口座を持っていたのか分からない」という状況は珍しくありません。
すべての財産を細かく一覧にしておく必要はありませんが、少なくとも預貯金、証券、保険、不動産、借入れといった項目ごとに、金融機関名や保管場所だけでもメモしておくと、相続する側の手間は大きく変わります。
通帳や証券会社からの郵便物の保管場所を家族に伝えておくだけでも、十分な備えになります。
「誰に財産を残すか」も決めておく
「長男に自宅を残したい」「子どもたちには公平に分けたい」「お世話になった人にも財産を残したい」
そうした希望がある場合、遺言書がなければ、原則として法律で定められた相続人が相続することになります。
「子どもなら分かってくれるだろう」と思っていても、実際に相続が始まれば、財産の分け方を話し合わなければならないことがあります。
自分の希望があるなら、元気なうちに遺言書を作成しておくことで、子どもが判断に迷う場面を減らせます。
「何でも自分で準備する」必要はない
ここまで読んで、「終活って、こんなにたくさん準備しないといけないの?」と思った方もいるかもしれません。
しかし、すべてを準備する必要はありません。
子どもが近くに住んでいて、財産管理も亡くなった後の手続きも子どもに任せるつもりなら、遺言書を作って財産の内容を整理しておくだけで十分な場合もあります。
一方、子どもが遠方に住んでいる、財産管理を任せるのが難しい、亡くなった後の手続きを頼める人がいないという場合には、任意後見や死後事務委任など、別の方法も検討したほうがいいでしょう。
大切なのは、制度をたくさん利用することではなく、自分の場合、子どもに何を負担させたくないのかを考えることです。
「迷惑をかけない」ではなく「困らないようにしておく」
「子どもに迷惑をかけたくない」という気持ちは大切ですが、親が何も決めずにいることが、かえって子どもの負担になることもあります。
判断できなくなったとき誰が財産を管理するのか。
自宅をどうするのか。
亡くなった後の手続きを誰に任せるのか。
財産を誰に残すのか。
こうしたことを元気なうちに少しずつ決めておけば、子どもがその場で判断しなければならないことを減らせます。
「子どもに迷惑をかけない」というより、
「子どもが困らないように、自分の希望を決めておく」。
それも終活の大切な役割です。
高砂市・加古川市で、子どものための終活、遺言、任意後見、家族信託、死後事務委任などについてお考えの方は、後藤司法書士事務所にご相談ください。