令和6年3月から戸籍の広域交付制度が始まりました。
これにより、本籍地が遠方にある場合でも、お住まいの市区町村窓口で戸籍を取得できるようになり、以前より戸籍集めはずいぶん便利になりました。
相続手続きでは、亡くなられた方の出生から死亡までの戸籍を集める必要があります。本籍地が何度も変わっている方の場合、以前は複数の自治体へ郵送請求をしなければならず、それだけで何週間もかかることも珍しくありませんでした。
広域交付制度が始まった当初は、窓口で長時間待たされたり、システム障害によって受付が中断したりするなど、各地で混乱も見られました。私自身も利用しましたが、「便利な制度ではあるものの、まだ始まったばかりだから仕方ないかな」という印象でした。
しかし、制度開始から時間が経った現在では、窓口の運用もかなり落ち着き、以前のような混乱はほとんど見られません。以前と比べると、利用しやすい制度になったと感じています。
一方で、「戸籍が集めやすくなった=相続手続きが簡単になった」というわけではありません。
相続手続きでは、戸籍を取得すること以上に、その内容を正しく読み取り、法律上の相続人を正確に特定することが重要だからです。
戸籍を集めることと、戸籍を読み解くことは全く別です
相続手続きでは、亡くなられた方の出生から死亡までの戸籍を確認する必要があります。
広域交付制度によって取得しやすくなったとはいえ、実際に取得した戸籍を見ると、多くの方が「何が書いてあるのかわからない」と感じます。
古い戸籍は手書きで記載されているものも多く、現在の戸籍とは様式も大きく異なります。
さらに、改製原戸籍や除籍謄本など、普段目にすることのない戸籍も確認しなければならないケースが少なくありません。
結婚や離婚、養子縁組、転籍などによって戸籍が何冊にも分かれていることもあり、一つひとつの戸籍のつながりを確認しながら読み進める必要があります。
つまり、戸籍を取得できたからといって、それだけで相続人が分かるわけではないのです。
相続人を一人でも見落とすと大きな問題になります
戸籍を確認する最大の目的は、法律上の相続人を正確に特定することです。
例えば、
- 前婚のお子さんがいた
- 養子縁組をしていた
- 認知したお子さんがいた
- お子さんが先に亡くなっており、代襲相続が発生していた
こうした事実は、戸籍を丁寧に読み解いて初めて判明することがあります。
相続人を一人でも見落としたまま遺産分割協議を行うと、その協議は無効となり、やり直さなければならない可能性があります。
また、不動産の相続登記が進まなかったり、金融機関で預貯金の払い戻しができなかったりすることもあります。
時間や手間が増えるだけでなく、相続人同士のトラブルにつながることもあるため、相続人を正確に特定することは相続手続きの中でも特に重要な作業です。
戸籍が集まってからが本当のスタートです
相続手続きは、戸籍を集めて終わりではありません。
戸籍の内容を確認し、法律上の相続人を確定したうえで、
- 相続関係を整理する
- 遺産分割協議書を作成する
- 不動産の相続登記を行う
- 金融機関で名義変更や解約手続きを行う
など、多くの手続きが続きます。
特に不動産がある場合は、相続登記の義務化も始まっているため、戸籍収集だけで安心せず、その後の手続きまで見据えて進めることが大切です。
広域交付制度には今後期待したい点もあります
広域交付制度は非常に便利な制度ですが、一つだけ残念に感じる点があります。
それは、代理人が広域交付制度を利用できないことです。
司法書士などの代理人は、依頼を受けて戸籍を取得すること自体はできます。しかし、広域交付制度を利用して取得することは認められていません。
そのため、本籍地が遠方にある戸籍を広域交付で取得したい場合は、ご本人に市区町村の窓口まで足を運んでいただく必要があります。
ご高齢の方や平日に時間を取りにくい方にとっては、少し不便に感じる場面もあります。
制度の趣旨は理解できますが、適切な本人確認を前提として、今後は代理人による広域交付も認められるようになれば、利用者の利便性はさらに高まるのではないかと思います。
まとめ
広域交付制度の開始によって、戸籍の取得は以前より便利になりました。
しかし、相続手続きで本当に重要なのは、戸籍を集めることではなく、その内容を正しく読み解き、法律上の相続人を漏れなく特定することです。
古い戸籍や改製原戸籍、除籍謄本を確認しながら、出生から死亡までの戸籍をつなげて相続関係を整理する作業は、一般の方にとって決して簡単ではありません。
「戸籍は取得できたけれど、この先どう進めればいいのかわからない」「相続人を見落としていないか不安」という場合は、早めに専門家へ相談することで、その後の相続手続きをスムーズに進めることができます。
戸籍集めは以前より便利になりました。しかし、相続手続きの本当の難しさは、その先にあります。制度が便利になった今だからこそ、戸籍を正しく読み解き、確実に相続人を特定することの重要性は変わっていません。