「親が認知症になったら、成年後見制度を使うしかないの?」
「成年後見を始めたら、一生やめられないって聞いたけど、本当?」
「今すぐ後見を申し立てるべきなのか、制度が変わるまで待った方がいいの?」
親の認知症や判断能力の低下をきっかけに、こうしたご相談を頂くことがあります。
実は、成年後見制度は2026年に大きく変わることになりました。
2026年6月17日、成年後見制度の見直しを盛り込んだ「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)が成立し、6月24日に公布されています。
もっとも、2026年8月現在、改正法はまだ施行されていません。今はこれまでの成年後見制度がそのまま利用されています。
では、今回の改正で何が変わるのでしょうか。
特に大きいのは、「必要な支援だけを利用し、必要がなくなれば制度を終了できる」方向へ変わることです。
この記事では、成年後見制度の何が変わるのか、今後どのような使い方ができるようになるのか、そして今すでに親の認知症が心配な場合にどう考えればよいのかを説明します。
成年後見制度は、今まで「一度始めると終わりにくい」制度でした
成年後見制度は、認知症などによって判断能力が低下した方を、財産管理や契約などの面から支援する制度です。
例えば、
- 預貯金の管理や解約
- 不動産の売却
- 介護施設への入所契約
- 遺産分割協議
など、本人だけでは手続きが難しくなった場合に利用されます。
現在の制度では、本人の判断能力の程度によって「後見・保佐・補助」の3つに分かれています。
ところが、この仕組みには以前から問題が指摘されていました。
その一つが、制度を利用する必要がなくなっても、簡単には終了できないことです。
例えば、父親が認知症になり、相続手続きを進めるために成年後見制度を利用したとします。
後見人が選ばれて、遺産分割協議が無事に終わった。
では、そこで成年後見も終了できるのか。
現在の制度では、「相続手続きが終わったから」という理由だけで後見を終了することはできません。
そのため、その後も後見人による財産管理が続き、家庭裁判所が定める報酬も発生します。
例えば、仮に月3万円の報酬が10年間続けば、報酬だけで360万円になります。
もちろん、実際の報酬額は家庭裁判所が本人の財産状況や後見人の事務内容などを踏まえて個別に決めます。
こうした「一度始めると終わりにくい」という制度上の特徴が、成年後見制度の利用をためらう理由の一つになっていました。

2026年の改正で、成年後見制度はどう変わる?
今回の改正では、成年後見制度そのものの仕組みが大きく見直されます。
現在の「後見・保佐・補助」という3つの類型のうち、後見と保佐を廃止し、補助の制度に一元化することになります。
ただし、現在の補助制度をそのまま残して、後見と保佐を単純に吸収するという意味ではありません。
これまでのように、
「本人の判断能力がこの程度だから後見」
「この程度だから保佐」
という形で一律に制度を決めるのではなく、本人にどのような支援が必要なのかを個別に考える仕組みへ変わります。
例えば、
「不動産を売却する手続きだけ支援してほしい」
「特定の預貯金について管理を任せたい」
といったように、必要な範囲に絞って支援を受けやすくなります。
さらに、特定の事項について代理などの支援を受ける「特定補助」という仕組みも設けられます。
つまり、今回の改正は、
「何でも後見人に任せる」制度から、「本人に必要な支援を必要な範囲で利用する」制度へ変えていく
ことが大きなポイントです。
「必要なくなったら終われる」制度へ
今回の改正で、もう一つ大きく変わるのが制度の終了です。
改正後は、本人の判断能力が回復していなくても、成年後見制度を利用する必要がなくなった場合には、制度を終了できる仕組みが設けられます。
これは、現在の制度との大きな違いです。
例えば、
「相続手続きのために支援が必要だった」
「不動産を売却するために支援が必要だった」
というケースで、その手続きが終わり、その後は成年後見による支援が必要なくなった場合には、制度を終了することができるようになります。
これまでの成年後見制度では、「必要な手続きが終わったから後見も終わり」という考え方ができませんでした。
今回の改正では、こうした使い方ができる方向へ大きく変わります。
いわば、「始めたら最後」ではなく、「必要な間だけ利用する」成年後見制度を目指した改正です。
本人ができることまで、後見人が決める制度ではなくなる
今回の改正では、本人の意思を尊重することも重視されています。
現在の成年後見制度では、特に後見類型の場合、後見人には広い代理権が与えられます。
そのため、本人にまだ自分で判断できる部分が残っていたとしても、財産管理などについて後見人の関与が必要になる場面があります。
改正後は、本人が自分でできることは本人が行い、支援が必要な部分だけを支援するという考え方がより明確になります。
「本人のためだから、すべて周囲が決める」のではなく、
「本人ができることは本人に任せる」
「難しい部分だけ支援する」
という方向です。
成年後見制度を、本人の権利を制限する制度ではなく、本人の生活や意思決定を支える制度として見直していくことが、今回の改正の重要な目的の一つです。
すでに成年後見を利用している人はどうなる?
「今すでに親が成年後見制度を利用しているけど、改正されたらどうなるの?」
という疑問もあると思います。
この点についても、今回の改正では経過措置が設けられています。
現在の後見・保佐を利用している方については、基本的には現在の制度を継続して利用できます。
その一方で、改正後の補助制度へ移行することや、制度の利用を終了するための申立てができる仕組みも設けられています。
ただし、具体的な手続きや実際の運用については、施行後の制度や家庭裁判所の運用を確認する必要があります。
2026年8月現在、改正法はまだ施行されていません
ここは非常に重要です。
法律が成立したからといって、すぐに新しい制度が使えるわけではありません。
2026年8月現在、成年後見制度については現在の制度がそのまま適用されています。
成年後見制度の見直しについては、2026年6月24日の公布から2年6か月を超えない範囲で、政令によって施行日が定められることになっています。
そのため、遅くとも2028年12月頃までには施行されることになります。
つまり、
「もうすぐ制度が変わるから、それまで成年後見の申立てを待とう」
と単純に考えることはできません。
例えば、親がすでに認知症になっていて、
- 相続手続きを進めなければならない
- 不動産を売却する必要がある
- 預貯金を解約する必要がある
- 施設への入所契約が必要
といった事情がある場合には、改正法の施行を待つことによって手続きが止まってしまう可能性があります。
今必要な手続きについては、現在利用できる制度を前提に考える必要があります。
親が元気なうちなら、成年後見以外の方法も検討できます
今回の法改正を知って、
「じゃあ、親が認知症になる前に何かしておいた方がいいの?」
と思った方もいるかもしれません。
ここは重要なポイントです。
成年後見制度は、基本的に本人の判断能力が低下した後に、家庭裁判所の関与のもとで支援を受ける制度です。
一方、本人がまだ判断能力を十分に有している段階であれば、任意後見契約という方法があります。
任意後見契約では、本人が元気なうちに、将来判断能力が低下した場合に備えて、誰に財産管理や生活・療養看護に関する事務を任せるのかを自分で決めておくことができます。
また、財産の管理・承継については、家族信託という方法が適する場合もあります。
さらに、判断能力が低下する前の財産管理を支えるために、財産管理委任契約や見守り契約などを組み合わせることもあります。
どの方法が適しているかは、
「親の判断能力が現在どの程度なのか」
「どの財産を管理する必要があるのか」
「誰に管理を任せたいのか」
「将来、どのような場面で困る可能性があるのか」
によって変わります。
今すぐ成年後見を申し立てるべきなのか?
今回の法改正を知ったからといって、すべてのご家庭が成年後見を急いで申し立てる必要があるわけではありません。
反対に、
「制度が変わるまで待とう」
と判断してよいとも限りません。
大切なのは、現在の状況で何が必要なのかを整理することです。
例えば、親の判断能力はまだ十分にあり、今後の財産管理について本人自身が希望を決められるのであれば、任意後見契約などを検討できる可能性があります。
一方、すでに判断能力が低下しており、本人だけでは相続や不動産売却などの手続きを進められないのであれば、現在の成年後見制度を利用する必要が出てくることがあります。
2026年の法改正は、成年後見制度を大きく変えるものです。
ただ、「改正されるから待つ」のではなく、「今の状況なら何を選べるのか」を考えることが大切です。
親の判断能力に不安を感じている場合は、成年後見だけに限定せず、任意後見や家族信託なども含めて、早めに選択肢を整理しておくと安心です。
当事務所でも、成年後見制度の利用を検討している方だけでなく、任意後見や家族信託など、判断能力があるうちにできる備えについてもご相談いただけます。