「成年後見を始めたら、一生続く」は本当か
父の相続のために成年後見制度を利用した、不動産売却のために必要だったので手続きをした、そして相続や売却の手続きは無事に終わった。では、成年後見も一緒に終わりにできるのか。このように考える方もいらっしゃるのではないでしょうか。
結論から言うと、現行制度では、当初の目的となった手続きが終わっただけでは成年後見は終了しません。相続手続きが終わった後も、後見人による本人の財産管理や身上保護は続くことになります。これが、成年後見制度が「一度始めたら終わりにくい制度」と言われてきた理由です。
現行制度で成年後見が終了する場合
現行制度のうち、後見・保佐については、原則として本人の判断能力が回復した場合などに審判を取り消すことで終了します。
このほか、本人が死亡した場合も終了します。後見は本人の判断能力を補うための制度であるため、本人の死亡によって当然に終了します。
判断能力の回復による終了は、家庭裁判所が後見を継続する必要がなくなったと判断し、後見開始の審判を取り消すことで生じます(民法第10条)。判断能力が回復して保佐や補助で足りる程度になった場合も、この取消しの対象になります。
一方で、「遺産分割が終わった」「不動産売却が終わった」といった当初の目的の達成は、取消しの理由にはなりません。判断能力が回復しない限り、後見は本人が亡くなるまで続くのが原則です。なお、補助については、同意権や代理権を付与する審判をすべて取り消せば補助開始の審判も取り消される仕組みが現行法にも存在しますが、後見・保佐にはこうした柔軟な終了の仕組みがありませんでした。
2026年の法改正で何が変わるか
2026年6月17日、成年後見制度を見直す「民法等の一部を改正する法律」が国会で成立し、同月24日に公布されました。2000年の制度開始から約26年ぶりとなる、制度の骨格そのものの見直しです。
改正の柱は次の3点です。
- 「後見」「保佐」を廃止し、「補助」に一元化する
- 家庭裁判所が本人に必要な支援の範囲を個別に決めるオーダーメイド型に移行する
- 支援の必要性がなくなれば、審判を取り消して制度の利用を途中で終了できる仕組みを新設する
あわせて、補助人には年に1回、家庭裁判所へ状況を報告することが義務付けられます。これまでの「一度始めたら判断能力が回復するまでやめられない」事実上の終身制から、「必要な支援を必要な期間だけ利用する制度」への転換と言えます。
施行時期は公布から2年6か月以内とされており、遅くとも2028年12月頃までに始まる見込みです。2026年8月時点では、まだ施行されていません。

「相続が終わったら自動的に終了」ではない
改正後の制度でも、「相続が終わったら自動的に補助が終了する」わけではない点には注意が必要です。
例えば、父の遺産分割のために制度を利用し、遺産分割協議が終わったとします。この場合でも、制度の利用を終了するためには、家庭裁判所に対して必要な審判の取消しを申し立てる手続きが必要になります。支援がもう不要だと家庭裁判所が判断して初めて、審判が取り消され、制度の利用が終わることになります。
誰が終了を申し立てられるか
現行の民法第7条では、後見開始の申立てができるのは、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人、検察官とされています。判断能力の回復による審判の取消しの申立ても、基本的にこれらの申立権者が行う仕組みです。
改正後の補助への一元化後も、本人や配偶者、四親等内の親族、補助人などに終了の申立権が認められる方向で制度設計が進められています。ただし、具体的な条文の運用や家庭裁判所での取扱いの細部は、施行に向けた政省令や運用の整備を経て確定していく段階であり、法務省の発表など最新情報の確認が必要です。
すでに成年後見を利用している人はどうなるか
今回の改正は、これから成年後見を検討する人だけでなく、すでに後見・保佐を利用している人にも関わる改正です。改正法には経過措置が設けられており、施行時点で現行の後見・保佐を利用している場合、直ちに新制度へ切り替わるわけではなく、当面はそのまま利用を継続できる見込みです。その上で、新制度への移行や、支援の必要性がなくなった場合の終了に向けた申立てを行う道が用意されることになります。
「今すでに後見人がついている親のことは関係ない」と考えるのではなく、施行後の運用開始にあわせて、自分の家族のケースがどう扱われるのかを確認しておくことが重要です。
こんなケースではどうなるか
ケース1 相続手続きのために利用したケース 父の相続のために成年後見を開始し、遺産分割協議が終了した場合、現行制度ではそのまま後見が続きます。改正後は、他に継続的な支援の必要性がなければ、終了の申立てを検討できるようになります。
ケース2 不動産売却のために利用したケース 施設費用の捻出のために自宅を売却する必要があり、後見制度を利用した場合も同様です。売却手続きが終わった後、本人にそれ以上の財産管理の必要性が残っているかどうかで、終了できるかが判断されます。
ケース3 継続的な財産管理が必要なケース 相続手続きは終わっても、本人の預貯金管理や日常的な支払いなど、継続的な財産管理が引き続き必要な場合は、改正後も終了とはなりません。制度が変わっても、支援の必要性がある限り利用は続きます。
このように、改正後もあらゆるケースで自由に終了できるわけではなく、支援の必要性の有無が判断の基準になります。
施行前の今、どうすればいいか
2026年8月現在、改正法はすでに成立・公布されていますが、まだ施行されていません。
今、親の判断能力の低下が進み、財産管理や契約手続きの支援がすぐに必要な状況であれば、施行を待たずに現行の成年後見制度を利用する必要があります。一方、まだ判断能力に大きな問題がなく、将来に備える段階であれば、任意後見契約や家族信託など、他の選択肢もあわせて検討する価値があります。「改正を待ってから動く」という判断が、常に正しいとは限りません。現状の家族の状況に応じて、今取るべき対応を見極めることが重要です。
私は、今回の改正は成年後見制度にとって非常に大きな前進だと考えています。必要な支援を必要な期間だけ利用するという考え方が明確になり、これまで成年後見制度の利用をためらっていた方にとっても、選択肢として検討しやすい制度になるからです。
まとめ
今回の改正は、成年後見制度を「一度始めたら終わりにくい制度」から、「必要な支援を必要な期間だけ利用する制度」へ近づける大きな変更です。後見・保佐の廃止と補助への一元化、そして途中での利用終了を可能にする仕組みの新設によって、これまで指摘されてきた使いにくさが見直されることになります。
一方で、施行は2028年頃までとまだ先であり、申立権者の細部や運用面は今後の整備を待つ部分も残っています。「親の成年後見を検討しているが、今申し立てるべきか、改正を待つべきか分からない」という場合は、現状の家族の状況を踏まえた個別の判断が必要です。専門家への相談を通じて、今取るべき対応を確認することをおすすめします。