「相続人の一人だけが、遺産分割の話し合いに応じてくれません」
相続の相談で、こう話される方がいました。
相続人はきょうだい3人で、そのうち2人は「長男が自宅を引き継ぎ、代わりに一定のお金を渡す」という案に賛成していました。
ところが、残る一人だけがどうしても首を縦に振らず、話し合いは半年以上そのままになっていたそうです。
「何度説明しても『納得できない』の一点張りで、何が引っかかっているのかもよく分からなくて」
相続人の大半が納得していても、一人だけが反対している。
このような場合、他の相続人だけで遺産分割協議を成立させることはできません。
では、その後どうすればよいのでしょうか。
一人でも納得しなければ、遺産分割協議は成立しない
遺産分割協議は、相続人全員で行う必要があります。
3人のうち2人が「長男が自宅を取得する」という内容に賛成していても、残る1人が反対しているのであれば、その内容で遺産分割協議を成立させることはできません。
「3人のうち2人が賛成しているから大丈夫」というものではありません。
そのため、一人だけが納得していない場合には、まずなぜ納得していないのかを確認することが重要です。
「反対している理由」によって、その後の対応は変わります
一人が判を押してくれないといっても、その理由はさまざまです。
自分の取り分が少ないと思っている、不動産の評価額に納得していない、「自分も不動産を取得したい」と考えている、売却して現金で分けたいと考えている、以前の親との関係や兄弟間の事情から感情的に納得できない、遺産の内容を十分に知らされていない、他の相続人が財産を隠しているのではないかと疑っている。
こうした理由が考えられます。
単に「判を押してください」と繰り返すだけでは、話が進まないことがあります。
冒頭のケースも、詳しく話を聞いていくと、反対している相続人は不動産の取得そのものには反対しておらず、評価額の算定方法に疑問を持っていたことが分かりました。
まず、相手が何に納得していないのかを整理する必要があります。
ただし、理由を聞けばそれで解決するとは限りません。
理由をたどっていくと、「不満の中身が具体的で、こちらの対応次第で解消できるケース」と、「何を提示しても応じないケース」の、大きく2つに分かれます。
前者であれば、評価額や分け方を見直すことで話が進む可能性があります。
一方、後者であれば、条件をいくら変えても納得してもらえないため、話し合いを続けること自体の見直しが必要になります。
自分のケースがどちらに近いのかを見極めることが、次の対応を考えるうえで重要です。
「譲歩する」のではなく「合意できる条件を探す」
たとえば、相続財産が自宅と預貯金で、長男が自宅を取得するという案を提示したとします。
次男が、「自宅を長男が取得すること自体には反対しない。ただ、自分の取り分が少なすぎる」と考えているのであれば、代償金の金額を調整することで話がまとまる可能性があります。
逆に、「自宅を売却して、その代金を分けたい」という考えであれば、最初の提案とは別の分け方を検討する必要があります。
ここで大切なのは、相手の言い分にただ合わせ続けることではありません。
相手が「評価額が低すぎる」と主張しているのであれば、別の不動産会社に査定を依頼する、複数の査定額を比較するなど、評価の根拠を確認する方法があります。
つまり、譲歩を重ねるのではなく、双方が納得できる根拠や条件を探すという発想です。
冒頭のケースも、不動産会社に改めて査定を依頼し、評価の根拠を示したことで、話し合いが前に進み始めました。

いつまでも話し合いを続ければいいわけではありません
もっとも、何度話し合っても相手が譲らない場合もあります。
こちらが条件を変更して提案しても拒否される、相手から具体的な代案も出てこない。
このような状態であれば、話し合いだけを繰り返しても、相続手続きがいつまでも進みません。
「不動産を売却して現金化したい」「相続した不動産を処分したい」「預貯金を含めて早く遺産を分けたい」という事情がある場合には、相続人同士の話し合いだけで解決することにこだわる必要はありません。
話し合いでまとまらなければ、遺産分割調停という方法があります
相続人同士で話し合っても合意できない場合には、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることができます。
調停では、相続人同士が直接話し合うのではなく、調停委員を介して、それぞれの意見や希望を確認しながら遺産の分け方を話し合います。
「自宅は長男が取得する代わりに、他の相続人へ代償金を支払う」「不動産を売却し、その売却代金をそれぞれの取得割合に応じて分ける」といった方法についても話し合うことができます。
ただし、調停も話し合いによる手続きです。
最終的に合意できなければ、調停が成立しないこともあります。
その場合には、審判によって家庭裁判所が遺産の分け方を判断することになります。
「判を押さない人を無視して進める」はできません
ここは注意が必要です。
「他の相続人は全員賛成しているから、その人を除いて遺産分割協議書を作ってしまおう」ということはできません。
「もう何もいらないと言っていたから、相続分はないことにしておこう」という扱いも、正式な手続きとは別問題です。
相続人の一人が協議に参加しないのであれば、その人を含めて協議を成立させるか、協議での解決が難しければ家庭裁判所の手続きを利用する必要があります。
大切なのは「判を押してもらうこと」ではない
相続人の一人が遺産分割協議に応じないと、「どうすれば判を押してもらえるのか」と考えてしまいがちです。
しかし、本当に考えるべきなのは、相続人全員が納得できる遺産の分け方をどう作るかです。
相手が何に不満を持っているのか。
こちらの提案を変更する余地があるのか。
これ以上話し合ってもまとまらない状況なのか。
そして、調停を利用したほうがよい段階なのか。
ここを整理すると、次に取るべき対応が見えてきます。
冒頭のケースも、評価額という具体的な争点が見えたことで、半年止まっていた話し合いが動き出しました。
相続人の一人だけが遺産分割協議に応じず、相続手続きが止まってしまっている場合は、ご相談ください。
話し合いを続ける余地があるのか、遺産分割協議書を作れる状態にあるのか、調停を検討すべき段階なのか、調停や審判になった場合に弁護士への相談が必要になりそうか。
これまでの経緯や相続財産の内容をお聞きしたうえで、こうした点を整理し、今後の進め方をご案内します。
高砂市・加古川市で、相続でお悩みの方は、後藤司法書士事務所までご相談ください。