「父が亡くなり、相続放棄を考えています。でも、父が借りていた賃貸住宅はどうすればいいのでしょうか?」
相続放棄を考えている方からは、こうしたご相談もあります。
特に問題になりやすいのが、
- 亡くなった人名義の賃貸住宅に家族が住んでいる
- 家賃を滞納している
- 大家さんや管理会社から退去を求められている
- 部屋に家具や家電が残っている
- 賃貸借契約を誰が解除するのか分からない
- 相続放棄をしたら家賃や退去費用まで払わなければならないのか分からない
といったケースです。
結論からいうと、賃貸住宅があるからといって、相続放棄ができなくなるわけではありません。
ただし、相続放棄をする前後には、家賃の支払い、賃貸借契約の解除、退去、部屋に残った荷物などについて注意が必要です。
亡くなった人が借りていた賃貸住宅はどうなる?
亡くなった方が賃貸住宅を借りていた場合、その賃貸借契約や未払い家賃について相続の問題が生じます。
相続人が相続放棄をすると、その人はその相続について、法律上、初めから相続人とならなかったものとして扱われます。
そのため、被相続人が残した未払い家賃などについて、相続放棄をした人が相続人として支払う義務を負うことはありません。
ただし、相続放棄をする前に、亡くなった方の預金などを使って家賃やその他の債務を支払う場合には注意が必要です。
相続財産を処分したと判断されれば、単純承認をしたものとみなされ、相続放棄との関係で問題になる可能性があります。
「大家さんに迷惑をかけたくないから」と、亡くなった方の預金から家賃を支払う前に、相続放棄との関係を確認しておくことが大切です。

相続放棄をしたら、住んでいる家から退去しなければならない?
ここも、よく誤解されるところです。
たとえば、亡くなった父親と妻や子どもが同じ賃貸住宅で暮らしていたとします。
父親が亡くなり、妻も相続放棄をすることにしました。
「相続放棄をしたら、今日からこの家に住めなくなるのでしょうか?」
と心配になるかもしれません。
しかし、相続放棄をしたことだけを理由として、同居していた家族が直ちに退去しなければならないとは限りません。
一方で、亡くなった人が借主だった場合、相続放棄をした家族がその賃貸借契約を相続によって引き継いで、そのまま住み続けられるというわけでもありません。
今後も住み続けたいのであれば、大家さんや管理会社との間で、たとえば、亡くなった方との契約を終了させたうえで、同居していた家族が新たに賃貸借契約を結ぶという方法もあります。
そのため、
「相続放棄はするが、今の家には住み続けたい」
という場合は、相続放棄の手続きだけでなく、賃貸借契約についても早めに手を打っておきましょう。
賃貸借契約は誰が解除する?
もう一つ気をつけたいのが、亡くなった方が借りていた賃貸借契約を誰が解除するのかという問題です。
たとえば、父親がアパートを借りていて亡くなり、子どもが相続放棄をするケースです。
「相続放棄をするなら、子どもが父親の賃貸借契約を解約して、部屋を明け渡せばいいのでは?」
と考えるかもしれません。
しかし、相続放棄をする予定の人が、亡くなった方の賃貸借契約について自分の判断で解除手続きを進めることには注意が必要です。
相続放棄をすると、その人はその相続について初めから相続人とならなかったものとして扱われます。
相続人が複数いる場合には、相続放棄をしていない相続人が、亡くなった方の賃貸借契約について対応することになります。
また、先順位の相続人が全員相続放棄したことで、次の順位の相続人が相続人となる場合もあります。
そのため、相続放棄をする人が先に自分で契約を解除してしまうのではなく、次に相続人となる人がいるのかを確認し、その相続人に賃貸借契約の解除などについて対応してもらうことを考えます。
たとえば、子ども全員が相続放棄をすると、父親の親や兄弟姉妹などが次の相続人となる場合があります。
その場合は、次の相続人に事情を伝え、賃貸借契約の解除や大家さん・管理会社とのやり取りについて対応してもらうことになります。
ただし、次の順位の相続人も相続放棄する場合など、相続人が誰も対応できなくなるケースもあります。
このような場合には、相続財産の管理について別の手続きが必要になることがあります。
「相続放棄するから、自分で賃貸借契約を解約して部屋を返せばいい」と考えて、先に解約手続きを進めるのではなく、誰が次の相続人になるのかを確認したうえで対応することが大切です。
家賃を払ったら相続放棄できなくなる?
相続放棄を考えている方から、よく出てくる疑問です。
「亡くなった家族が借りていた部屋の家賃を払わないといけない。でも、家賃を払ったら相続放棄できなくなるのでは?」
と心配になる方もいるでしょう。
相続放棄との関係では、相続人が相続財産を処分すると、単純承認をしたものとみなされる可能性があります。
そのため、相続放棄を予定しているのであれば、亡くなった方の預金などを使って、安易に家賃や退去費用を支払うことは避けた方が安全です。
ただし、
「家賃を1回でも払ったら、絶対に相続放棄できない」
という意味ではありません。
支払ったお金が誰のものなのか、何のための支払いなのか、どのような経緯で支払ったのかなどによって判断が変わります。
相続放棄を考えているのであれば、亡くなった方の預金から支払う前に、相続放棄との関係を確認することが大切です。
退去する場合、部屋の荷物はどうすればいい?
相続放棄をする場合、賃貸住宅の退去も問題になります。
部屋の中には、
- テレビ
- 冷蔵庫
- 洗濯機
- ベッド
- 衣類
- 書類
- その他の日用品
などが残っていることがあります。
ここで、
「もう使わないから、全部捨ててしまおう」
と考えるのは注意が必要です。
相続放棄をする場合、亡くなった方の財産を勝手に処分することは避けなければなりません。
家具や家電なども、財産的価値があるものについては相続財産に該当する可能性があります。
そのため、相続放棄をするからといって、部屋の荷物を自由に処分してよいわけではありません。
大家さんや管理会社から、
「退去するなら荷物を全部処分してください」
と言われた場合でも、すぐに処分するのではなく、相続放棄との関係を確認したうえで対応することが大切です。

大家さんから「滞納家賃を払ってください」と言われたら?
亡くなった人が家賃を滞納していた場合、大家さんや管理会社から相続人に対して、
「滞納家賃を払ってください」
「退去費用を払ってください」
「部屋の荷物を処分してください」
などと言われることがあります。
しかし、相続放棄をした人は、被相続人の滞納家賃などを、相続人であることを理由に支払う義務を負うわけではありません。
ただし、相続とは別の理由で支払義務が生じる場合があります。
たとえば、その人自身が賃貸借契約の連帯保証人になっている場合です。
この場合は、相続人としてではなく、保証人としての責任が問題になります。
また、現在その部屋に住んでいる家族が、自分自身の名前で新たに賃貸借契約を結んだ場合には、その新しい契約に基づく家賃などを支払う必要があります。
したがって、
「相続放棄をしたから、大家さんから何を言われても全部払わなくていい」
ということでもありません。
被相続人の債務なのか、それとも自分自身に支払義務があるものなのかを確認することが重要です。
相続放棄をする前に確認しておきたいこと
亡くなった方が賃貸住宅を借りていた場合、相続放棄の手続きを進める前に、次の点を確認しておきましょう。
① 賃貸借契約の名義
誰の名前で契約されているのかを確認します。
② 誰が現在住んでいるか
亡くなった方だけが住んでいたのか、配偶者や子どもなどの家族も一緒に住んでいたのかによって、対応が変わります。
③ 家賃の滞納があるか
滞納がある場合は、金額や期間を確認します。
④ 保証人が誰なのか
保証人・連帯保証人がいる場合には、相続とは別に保証人としての責任が問題になる可能性があります。
⑤ 部屋の中に何が残っているか
家具・家電などが残っている場合は、相続放棄との関係に注意が必要です。
⑥ これからも住み続けたいのか
「相続放棄はするが、今の家には住み続けたい」という場合は、大家さんや管理会社との契約関係を確認する必要があります。
相続放棄をするなら、賃貸住宅の扱いにも注意が必要です
賃貸住宅があるからといって、相続放棄ができなくなるわけではありません。
ただし、相続放棄をする予定であれば、亡くなった方の賃貸住宅について、次のようなことを自分の判断だけで進めるのは避けた方が安全です。
- 亡くなった方の預金から家賃を支払う
- 滞納家賃や退去費用を支払う
- 部屋の家具や家電を処分する
- 賃貸借契約を解約する
- そのまま住み続ける
これらは、誰が契約者なのか、誰が住んでいるのか、誰のお金で支払うのか、誰が次の相続人になるのかによって、対応が変わります。
特に、相続放棄をする前に亡くなった方の預金を使ったり、部屋の荷物を処分したり、賃貸借契約を解除したりすると、相続放棄との関係で問題になる可能性があります。
「相続放棄をしたいけれど、亡くなった家族の賃貸住宅をどうすればいいのか分からない」という場合は、家賃の支払い、契約の解除、退去、荷物の処分などを先に行わず、一度ご相談ください。
賃貸借契約の名義や現在の居住状況、家賃の支払い状況、保証人の有無などを確認したうえで、相続放棄との関係でどのように対応すればよいのかを一緒に確認します。
相続放棄には、原則として、相続の開始を知った時から3か月という期限があります。
賃貸住宅のことで悩んでいるうちに期限が過ぎてしまわないよう、相続放棄をするか迷っている段階でも、早めにご相談ください。