「会社は一緒に仕事している長男に継がせたい」
そう考えている中小企業の経営者の方も多いのではないでしょうか。
では、自分が亡くなった後、自社株はどうするでしょうか。
「長男が会社を継ぐのだから、自社株も長男に渡せばいい」
そう考えるのは自然なことです。
ところが、自社株の評価額が大きい会社では、株式を長男に渡すだけでは話が終わらないことがあります。
次男には何を残すのか。
妻の生活はどうするのか。
遺留分はどうなるのか。
そして、相続税をどう納めるのか。
自社株の承継を考えるときには、こうした問題も一緒に考えておく必要があります。
今回は、ある会社経営者のケースを例に見てみましょう。
「会社は長男に継がせたい。でも、次男にも残してやりたい」
父は70歳。現在も会社を経営しています。
会社では長男が働いており、将来は長男に事業を引き継いでもらう予定です。
一方、次男は会社では働いていません。
遠方で自分の家庭を持って暮らしていて、父との関係が悪いわけでもありません。帰省したときには顔を合わせるし、孫も可愛がっています。普通の親子関係です。
ただ、長男とは違い、会社経営を一緒にしているわけではありません。
父としては、
「会社は長男に継がせたい」
という気持ちははっきりしています。
その一方で、
「次男には何も残さないというのは違う。次男にもいくらかの財産を残してやりたい」
とも考えています。
父の財産は、次のような内容だったとします。
- 自社株 5,000万円
- 自宅 3,000万円
- 預貯金 2,000万円
合計1億円です。
父が考えている財産の分け方は、例えば次のようなものです。
- 自社株5,000万円 → 長男
- 自宅3,000万円 → 妻
- 預貯金1,500万円 → 妻
- 預貯金500万円 → 次男
妻には、自宅と1,500万円を残して、これからの生活に困らないようにしたい。
次男にも500万円を残しておきたい。
そして、会社は長男に継がせる。
父としては、それぞれの家族に配慮したつもりの財産配分です。
ところが、ここで一つ考えておかなければならない問題があります。
次男の遺留分です。

次男に500万円を残しても、遺留分の問題は残る
「次男にも500万円を残すのだから、それでいいのでは?」
と思うかもしれません。
しかし、自社株の評価額が5,000万円ある今回のケースでは、そう簡単ではありません。
相続人は、妻・長男・次男の3人。
財産が1億円だとすると、次男の個別的遺留分は、単純化すればその8分の1である1,250万円です。
ところが、遺言によって次男が取得するのは500万円。
そのため、
1,250万円-500万円=750万円
について、遺留分侵害額請求が問題になる可能性があります。
ここで大切なのは、父が次男に何も残そうとしていないわけではないということです。
500万円はきちんと次男に残しています。
それでも、自社株の評価額が大きいため、結果として遺留分を満たせないことがあります。
つまり、
「会社は長男に継がせたい」
「次男にも財産を残したい」
という父の希望を両立させようとしても、自社株の価値が大きければ、遺留分まで含めて考えなければならないのです。
問題は「遺留分をどうするか」だけではない
ここで、もう一つ考えておきたいことがあります。
遺留分侵害額請求が問題になった場合、最終的には金銭の支払いが必要になります。
ところが、今回の財産配分を見ると、長男が取得するのは5,000万円の自社株です。
預貯金2,000万円は、妻が1,500万円、次男が500万円を取得します。
つまり、長男は自社株を取得する一方で、現金はほとんど取得していません。
自社株には5,000万円という評価額があります。
しかし、それは長男の銀行口座に5,000万円が入ってくるという意味ではありません。
会社を継ぐために保有する株式ですから、相続が始まってから、それを簡単に現金化できるとは限りません。
そのため、
自社株は長男に集中させる。
でも、遺留分の支払いに必要な現金はどうするのか。
という問題が出てきます。
ここまで考えて、初めて「自社株をどう承継するか」だけでは足りないことが分かります。
後継者が会社を引き継いだ後、どんな資金が必要になるのかまで考えておく必要があるのです。
生命保険で、後継者の資金を準備しておく
そこで選択肢の一つになるのが、生命保険です。
父が元気なうちに生命保険に加入し、長男を死亡保険金の受取人としておきます。
例えば、死亡保険金を1,500万円とします。
父が亡くなったとき、長男が1,500万円の保険金を受け取れば、その資金を遺留分侵害額の支払いに充てることができます。
今回のケースで、次男から750万円の遺留分侵害額請求を受けたとすれば、1,500万円の保険金のうち750万円をその支払いに充てることができます。
残った資金は、相続税の納税資金などに充てることも考えられます。
ここで生命保険を使う意味は、自社株を長男に渡すためではありません。
自社株を長男に集中させた結果、長男に必要になる現金を、父が元気なうちから準備しておくことにあります。
今回のケースなら、
- 自社株は長男へ
- 自宅と1,500万円は妻へ
- 500万円は次男へ
- 長男には生命保険1,500万円を残す
という形です。
これなら、会社を長男に引き継がせるという父の希望を守りながら、遺留分や相続税についても準備しておくことができます。
もちろん、生命保険に加入すれば遺留分の問題がなくなるわけではありません。
また、実際の相続税額も、財産の内容や債務、各種控除・特例などによって変わります。
生命保険の金額も、遺留分だけでなく、相続税の納税資金や母の生活などを含めて考える必要があります。
自社株の承継方法も含めて検討する
ここまで見てきた生命保険は、あくまで自社株を長男に承継させた後に必要となる資金への備えです。
では、そもそも自社株をどのように長男へ承継させるのか。
ここも別に考える必要があります。
例えば、
- 遺言によって長男に自社株を相続させる
- 生前に長男へ自社株を贈与する
- 信託を活用して将来の承継方法をあらかじめ決めておく
- 相続開始後、遺産分割協議によって長男が取得する
といった方法があります。
また、一定の要件を満たす場合には、経営承継円滑化法による遺留分に関する民法の特例を利用できる場合もあります。
この制度では、一定の要件のもと、後継者に贈与された自社株について、遺留分算定の基礎となる財産から除外したり、遺留分算定の基礎となる株式の価額を合意した時点の価額に固定したりすることができます。
ただし、推定相続人全員の合意など一定の要件があり、所定の手続も必要です。
そのため、自社株の承継方法を決めるときには、遺言・生前贈与・信託などを比較しながら、会社や家族の状況に合った方法を考える必要があります。

自社株を承継するときは、相続税も忘れない
自社株の承継で忘れてはいけないのが、相続税です。
今回のケースでは、自社株だけで5,000万円あります。
長男が会社を引き継ぐためには、この株式を保有し続けることになります。
その一方で、相続税は現金で納めるのが原則です。
「株式はあるけれど、納税に使える現金がない」
という事態にならないよう、あらかじめ納税資金を準備しておくことが重要です。
ここでも、生命保険が選択肢になります。
生命保険には、一定の要件を満たせば、「500万円×法定相続人の数」の非課税限度額があります。
今回、法定相続人が妻・長男・次男の3人であれば、非課税限度額は1,500万円です。
そのため、1,500万円の死亡保険金を準備することには、遺留分への対応だけでなく、相続税の納税資金を準備するという意味もあります。
ただし、生命保険金の非課税限度額には適用要件があり、実際の相続税額も個別の事情によって変わります。
自社株だけでなく、家族全体の財産を考える
「会社は長男に継がせたい」
その気持ちが決まっていても、自社株だけを見て準備を進めると、後になって問題が出てくることがあります。
今回の父の希望は、
- 会社は長男に継がせる
- 妻には自宅と生活資金を残す
- 次男にも500万円を残す
というものでした。
一見すると、それぞれに財産を分けているように見えます。
ところが、自社株の評価額が5,000万円あることで、次男の遺留分という問題が出てきます。
さらに、その支払いをする長男には、十分な現金がありません。
だからこそ、
自社株を誰に渡すか
だけでなく、
他の財産を誰に残すのか
遺留分が発生した場合にどう対応するのか
相続税をどう納めるのか
まで、まとめて考えておくことが大切です。
生命保険も、そのための一つの方法です。
「長男に会社を継がせる」と決めた段階で、自社株だけでなく、その後に必要になる資金まで考えておく。
それが、円滑な事業承継につながります。
自社株の承継についてお悩みならご相談ください
「会社は長男に継がせたいけれど、自社株をどう承継させればいいのか分からない」
「次男にも財産を残したいが、遺留分が心配」
「自社株を長男に集中させた場合の相続税や納税資金も考えておきたい」
このような場合には、自社株だけを見るのではなく、自宅や預貯金、生命保険などを含めた財産全体について考えることが大切です。
後藤司法書士事務所では、遺言・家族信託などを活用した自社株の承継について、ご家族や会社の状況を伺いながら、どのような方法が考えられるのかを整理します。
高砂市・加古川市を中心に、相続や事業承継に関するご相談をお受けしています。