「一度、正月に切り出してみたんです」
そう話す相談者がいました。
実家に帰省したとき、「そろそろ何かあったときのことも考えておいたら」と父親に持ちかけたところ、
「縁起でもない」「まだそんな歳じゃない」
と一言で流されてしまったそうです。
それから半年ほど経ったある日、父親が急に体調を崩して入院しました。
病院からは「緊急連絡先」「保証人」「今後の方針」を矢継ぎ早に聞かれ、相談者は答えられないことばかりでした。
どこの銀行を使っているのかも、通帳がどこにあるのかも、入院すら知らせるべき人が誰なのかも分からない。
「あのとき、もう少し粘って聞いておけばよかった」
相談者はそう振り返っていました。
終活の話は、家族にとって切り出しにくいものです。
ただ、何も話さないまま親が入院したり、判断能力が低下したりすると、子どもが困る場面が出てきます。
親が元気なうちに、一度話しておきたいことがあります。
いきなり「遺言を書いて」と言わない
終活の話をするとき、いきなり「遺言書を書いておいて」「任意後見をして」と言われても、親からすれば抵抗を感じるかもしれません。
まだ元気なのに、子どもから「亡くなった後の準備をして」と言われれば、自分の死を急かされているように感じることもあります。
最初から制度の話をする必要はありません。
「もし施設に入ることになったら、この家はどうしたい?」
「銀行や保険のこと、何かあったときに分かるようにしてある?」
「入院したとき、誰に連絡してほしい?」
こうした身近な話から始めるほうが、親も話しやすいはずです。
「もしものとき、誰に頼みたい?」を聞いてみる
終活で大切なのは、制度の名前を知ることではありません。
まず確認したいのは、「もし自分でできなくなったら、誰に頼みたいのか」ということです。
認知症などによって判断能力が低下すると、預貯金の管理や不動産の売却などが難しくなることがあります。
親が「そのときは長男に頼みたい」「娘に任せたい」と考えているなら、その希望を聞いておくだけでも意味があります。
さらに、本人の希望を法的な形にしておきたいのであれば、任意後見契約などを検討することができます。
「家はどうする?」は聞いておきたい
親が自宅を所有しているなら、家のことも一度聞いておきたいところです。
「できるだけ最後までここに住みたい」「施設に入ったら売ってほしい」「子どもの誰かに残したい」「売却して介護や施設の費用に使いたい」。
希望は人によって違います。
ところが、判断能力が低下してからでは、本人の希望どおりに自宅を処分できなくなることがあります。
本人が住んでいた不動産を成年後見人が売却する場合には、原則として家庭裁判所の許可が必要です。
だからこそ、元気なうちに、「この家を将来どうしたい?」と聞いておくことが大切です。
財産のことも「金額」より「どこにあるか」
冒頭の相談者のように、子どもが困るのは財産が多い場合だけではありません。
「銀行口座がどこにあるのか分からない」「生命保険に入っているのか分からない」「証券会社の口座があるらしいけど、どこか分からない」。
すべての財産を細かく説明してもらう必要はありません。
「通帳はどこに置いてある?」「保険の書類はどこ?」「不動産の権利証や関係書類はどこ?」「証券会社を利用している?」
といった情報だけでも聞いておくと、後の手続きがかなり変わります。

「亡くなった後、どうしてほしい?」も聞いておく
亡くなった後の希望も、元気なうちに聞いておきたいことです。
葬儀をどうするか、納骨をどうするか、お墓をどうするか、自宅の荷物をどうするか、ペットがいるなら誰に託すのか。
こうした希望は、法律上の手続きとは別に、本人の気持ちとして聞いておく意味があります。
亡くなってから家族が「お父さんならどうしてほしかったんだろう」と悩まなくて済むからです。
死後の手続きそのものを誰かに任せたい場合には、死後事務委任契約という方法もあります。
財産の分け方は、できれば本人の考えを聞いておく
相続で家族がもめるのを避けたいなら、財産の分け方についても親の考えを聞いておくとよいでしょう。
「自宅は長男に残したい」「預貯金は子ども3人で公平に分けたい」「介護してくれた子に多く残したい」など、本人に考えがあるかもしれません。
子どもが親に「どう分けるの?」と問い詰める必要はありません。
ただ、本人に希望があるなら、それを遺言書という形で残しておくことで、相続が始まった後の話し合いを減らせる場合があります。
話した内容を全部「契約」にする必要はない
親と話をしたからといって、そのすべてを契約書にしなければならないわけではありません。
「葬儀は簡単にしてほしい」「できるだけ自宅で暮らしたい」「家は売って施設の費用に使ってほしい」
といった希望を聞いておくだけでも、家族にとっては大きな意味があります。
そのうえで、判断能力が低下したときの財産管理なら任意後見、財産の管理や処分を家族に託したいなら家族信託、亡くなった後の財産の行き先を決めたいなら遺言、亡くなった後の事務を任せたいなら死後事務委任というように、必要なものだけを選べばいいのです。
終活の話は、一度ですべて決めなくていい
終活について話すとき、「今日全部決めておこう」と考える必要はありません。
一度に全部決めようとすると、親にとって負担になってしまいます。
冒頭の相談者も、最初の正月に一度失敗したあと、次に帰省したときは「施設に入ることになったら家どうする?」くらいの軽い話から、少しずつ聞き直すようにしたそうです。
年齢や生活環境が変わったときに、また確認すればいい。
一度で終わらせる必要はありません。
「聞いておけばよかった」とならないために
親が元気なうちは「まだ先のことだから」と思ってしまいます。
でも、入院や認知症などは、いつ起こるか分かりません。
そのときになって初めて「親はどうしたかったんだろう」と考えることになると、子どもは判断に迷います。
だからこそ、親が元気なうちに、「もしものとき、どうしてほしい?」と聞いておく。
それだけでも、立派な終活の一歩です。
終活は、親のためだけのものではありません。
親の希望を知っておくことで、子どもも「自分が勝手に決めていいのだろうか」と悩まずに済みます。
高砂市・加古川市で、親の終活について、遺言、任意後見、家族信託、死後事務委任などを検討されている方は、後藤司法書士事務所にご相談ください。