親が70代、80代に差し掛かると、多くの子どもが「認知症になったらどうしよう」という不安を抱くようになります。財産の管理や契約、医療や介護の手続きは、本人の判断能力が前提になっているものがほとんどです。判断能力が低下してからでは打てる対策が限られてしまうため、元気なうちの準備が重要になります。その選択肢の一つが「任意後見制度」です。
任意後見とは何か
任意後見とは、本人がまだ判断能力を持っている間に、将来判断能力が低下した場合に備えて、あらかじめ後見人となる人と支援の内容を契約で決めておく制度です。契約は公正証書で作成する必要があり、公証役場での手続きが必須です。
契約を結んだだけでは効力は発生しません。本人の判断能力が実際に低下した段階で、家庭裁判所に申し立てを行い、任意後見監督人が選任されて初めて任意後見が開始します。監督人は後見人の仕事を監視する役割を担い、後見人が契約内容から逸脱した行為をしていないかをチェックします。
任意後見人には家族や信頼できる知人を指定できるほか、司法書士や弁護士などの専門家を選ぶことも可能です。支援する内容は、財産管理、生活・療養看護に関する事務など、契約時に具体的に定めます。
法定後見との違い
判断能力が低下した後に家庭裁判所へ申し立てて後見人を選ぶ「法定後見」という制度もあります。任意後見との最大の違いは、後見人を誰にするかを自分で決められるかどうかです。
法定後見では、家庭裁判所が後見人を選任するため、必ずしも本人や家族の希望通りの人物が選ばれるとは限りません。専門家が選任されるケースも多く、その場合は報酬の支払いが継続的に発生します。一方、任意後見は契約の時点で本人が後見人を指定できるため、家族関係や本人の意向を反映しやすい制度です。
判断能力が既に低下している場合は任意後見契約を結ぶことができないため、法定後見しか選択できません。任意後見を利用するには、本人の判断能力があるうちに手続きを済ませておく必要があります。

子どもが準備すべきポイント
親の任意後見を検討する際、子どもの立場で準備しておきたい点は次の通りです。
早めに話し合いの機会を作る 判断能力の低下は本人にも自覚しにくく、話を切り出すタイミングが難しいテーマです。健康診断や資産の見直し、介護の準備といった話題と合わせて自然に切り出すと進めやすくなります。
財産や資産の全体像を把握する 不動産、預貯金、有価証券、保険など、親がどのような財産を持っているかを事前に確認しておくと、契約内容を具体的に決める際に役立ちます。通帳や権利証の保管場所も併せて確認しておくべきです。
後見人候補と支援範囲を明確にする 子どもが後見人になるのか、専門家に依頼するのかを話し合っておきます。財産管理だけでなく、施設入所の契約や、医療・介護に関する手続きや連絡などをどこまで任せるかも、契約前に整理しておく必要があります。なお、任意後見人は医療行為そのものへの同意権を持つわけではない点には注意が必要です。
公正証書作成の準備を進める 契約書の案を作成し、公証役場に相談の上で正式な公正証書を作成します。専門家に相談しながら進めると、契約内容の漏れを防ぎやすくなります。
任意後見と併せて財産管理契約を検討する 任意後見は判断能力低下後にしか効力を持たないため、判断能力があるうちの財産管理を委任する「財産管理等委任契約」を同時に結んでおくと、判断能力が低下する前から財産管理を任せることができ、任意後見への移行を見据えた準備ができます。ただし財産管理等委任契約から任意後見へ自動的に切り替わるわけではなく、判断能力が低下した際には改めて任意後見監督人の選任を申し立てる必要があります。
該当する親に多いケースを確認しておく 次のような状況に当てはまる場合は、早めに任意後見を検討しておくと安心です。
- 親名義の不動産がある
- 定期預金や証券口座が複数ある
- 将来、施設に入る可能性がある
- 親が一人暮らしをしている
- 子どもが遠方に住んでいる
これらに該当する家庭では、判断能力が低下した際に財産の管理や契約手続きが滞りやすく、対応できる家族が近くにいないケースも多いため、元気なうちに専門家へ相談しておくことをおすすめします。
任意後見開始までの流れ
- 本人と後見人候補者で支援内容を話し合う
- 公証役場で任意後見契約を公正証書として作成する
- 本人の判断能力が低下した際、家庭裁判所へ任意後見監督人選任の申し立てを行う
- 家庭裁判所が任意後見監督人を選任し、任意後見が正式に開始する
契約から開始までに時間差があることを理解しておくと、いざという時に慌てずに対応できます。
まとめ
任意後見制度は、親が元気なうちに将来の備えを形にできる制度です。法定後見と異なり、後見人を自分たちで選べる点が大きな特徴であり、家族の意向を反映した支援体制を作りやすくなります。判断能力が低下してからでは契約を結ぶことができないため、準備は早いほど選択肢が広がります。財産の把握や家族間の話し合いから始め、専門家への相談も視野に入れながら、無理のないペースで進めていくことが大切です。