「親もまだ元気だし、相続や将来のことはもう少し先でいいかな」
こう考えている方は多いと思います。
実際、ご相談の現場でも
「まだ認知症ではないので、今すぐ考えなくても大丈夫ですよね」
というお話をよく聞きます。
ただ、ここで知っておいていただきたいことがあります。
認知症などによって判断能力が低下してしまうと、それまで普通にできていた法律手続きの多くができなくなります。
そして厄介なのは、
一度その状態になってしまうと、もう選べなくなる対策がある
ということです。
今回は、その代表例をいくつかご紹介します。
1. 実家を売却したくても、家族だけでは売れません
例えば、親御さんが高齢になり施設に入所することになった場合。
施設費用をまかなうために、空き家になった実家を売却したい。
こう考えることは珍しくありません。
ただ、不動産の名義が親御さんのままで、すでに認知症が進行している場合。
本人が契約内容を理解し、意思表示できなければ売却手続きを進めることができません。
よく
「子どもなんだから代わりにできる」
と思われることがあります。
しかし法律上、親の財産を子どもが自由に処分できるわけではありません。
たとえ家族であっても別の話です。
2. 預金があっても、家族が自由に使えなくなることがあります
親御さん名義の預金。
介護費用や施設費用の支払いに使いたい場面は当然あります。
しかし、金融機関が本人の判断能力に問題があると判断した場合。
手続きが止まり、家族が自由に預金を動かせなくなることがあります。
「親のお金はあるのに使えない」
こういう状態になることは実際にあります。
事前に何も準備していないと、家族がかなり困る場面です。
3. 遺言書を作ろうと思った時には、もう作れないことがあります
「そろそろ遺言書を書いておこう」
そう考える方は多いです。
ただ、遺言書は本人の意思能力が前提になります。
認知症が進み、内容を理解して判断することが難しい状態になると、有効な遺言書を作成できない可能性があります。
つまり、
あとでやろうと思っていた対策そのものができなくなる
ということです。
4. 家族信託は、認知症になってからでは基本的にできません
最近よく聞くようになった家族信託。
認知症対策として紹介されることも多い制度です。
ただ、家族信託は契約です。
契約をする以上、ご本人に十分な判断能力が必要になります。
つまり認知症が進行した後に
「じゃあ家族信託をしておこう」
と思っても、基本的にはできません。
つまり、家族信託は問題が起きてから使う制度ではなく、問題が起きる前に準備しておく制度です。
5. 任意後見契約も、判断能力を失った後では間に合いません
任意後見契約も同じです。
これは将来判断能力が低下した時に備えて、
「この人に財産管理を任せます」
と元気なうちに決めておく制度です。
当然ですが、契約時点では本人がしっかり判断できる状態でなければなりません。
つまり、
認知症が進んでから契約することはできません。
「将来に備える制度」ですが、その“将来”が来てからでは利用できません。
6. 何もしないまま認知症になると、成年後見制度しか選択肢が残らないことがあります
ここまで見ていただいたように、
・遺言書
・家族信託
・任意後見契約
・生前贈与
こういった生前対策の多くは、ご本人に十分な判断能力があることが前提になります。
では、何の準備もしないまま認知症が進行してしまったらどうなるのでしょうか。
現実的には、成年後見制度 を検討することになります。
もちろん、ご本人を保護するために必要な制度です。
ただし、ここで注意しなければならないのは、
成年後見制度は“家族が自由に財産を動かすための制度”ではない
ということです。
例えば、
・施設費用を捻出するために実家を売却したい
・相続対策として生前贈与を進めたい
・将来を見据えて財産を子どもへ移しておきたい
こういったことを家族が考えていたとしても、思うように進められないことがあります。
なぜなら成年後見制度は、あくまで本人の財産を守る制度だからです。
そして一番大きいのは、
本当は別の方法を選びたかったとしても、その時点ではもう成年後見制度以外を選べないことがある
という点です。
実際のご相談でも、
「もっと早く対策していれば違う方法が取れましたね」
というケースは少なくありません。
認知症対策で本当に大切なのは、制度を知ることではありません。
“選択肢があるうちに動くこと”
これに尽きます。
本当に大切なのは、“まだ何も起きていない今”です
多くの方は問題が起きてから相談されます。
そしてその時によく出る言葉があります。
「もっと早く相談しておけばよかった」
認知症対策というと、
「まだ早い」
「もう少し先でいい」
と思われがちです。
ですが実際には、
元気な今だからこそ選べる方法があります。
・遺言書
・家族信託
・任意後見契約
・生前贈与
・その他の生前対策
何が最適かは、ご家庭によって全く違います。
ただ一つ言えるのは、
判断能力を失ってからでは、選択肢そのものが大きく減ってしまう
ということです。
ご家族の将来について少しでも気になることがあれば、一度早めに整理しておくことをおすすめします。