「親が亡くなったけれど、実家をどうするか決まらない」「兄弟で話し合いがまとまらない」「名義変更(相続登記)をしていないまま時間だけが過ぎている」——このようなご相談は決して少なくありません。
実家を相続したものの、誰も住む予定がなく、どうすればいいかわからないというケースは年々増えています。さらに、相続登記をしないまま放置すると、将来的に売却や活用が難しくなる場合があるため注意が必要です。
とりあえず片付けだけ済ませて、そのまま実家を空き家にしている方も多いのではないでしょうか。しかし、何も手を打たずに放置していると、固定資産税の負担や建物の老朽化、近隣とのトラブルなど、さまざまな問題が後から表面化してきます。
この記事では、「実家を相続したけれど誰も住まない」という状況にある方に向けて、相続登記のリスクや放置による問題、具体的な選択肢、兄弟姉妹で相続する際の注意点、そして相続前にできる備えについて解説します。
実家を相続したけど誰も住まないケースは増えている
少子高齢化や都市部への人口移動を背景に、実家を相続したものの居住予定がないというケースは年々増加しています。子どもたちがそれぞれ独立して別の地域で家庭を築いている場合、実家に戻って住むという選択肢自体が現実的でないことも多いでしょう。
相続の手続きは終えたものの、「売るべきか、貸すべきか、それとも残しておくべきか」で判断がつかず、結論を先延ばしにしてしまう方は珍しくありません。しかし、空き家の状態を放置する期間が長くなるほど、後述するようなリスクは大きくなっていきます。
相続登記をしないまま放置するリスク
実家をどうするか結論が出ないまま、名義変更(相続登記)を後回しにしてしまうケースは非常に多く見られます。しかし、これには法律上の注意点があります。
令和6年4月1日から、相続登記が義務化されました。不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記申請を行うことが原則となり、正当な理由なくこれを怠ると10万円以下の過料の対象となる可能性があります。
また、相続登記をしないまま放置すると、次のような不都合も生じます。
- 相続人がさらに亡くなることで相続人の数が増え、権利関係が複雑化する
- 名義が親のままだと、売却や賃貸、担保設定などの手続きができない
- 将来、相続人の一部と連絡が取れなくなり、登記手続き自体が困難になる
「まだ売るかどうか決めていないから」と登記を後回しにしている方も、義務化された制度である以上、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
空き家になった実家を放置するリスク
建物の老朽化
人が住まなくなった家は、換気や通水が行われないことで湿気がこもりやすくなり、劣化のスピードが早まります。雨漏りやシロアリ被害、屋根や外壁の破損が進むと、修繕費用がかさむだけでなく、倒壊などの危険性も高まります。
近隣への影響
庭木の繁茂や雑草の放置、害虫の発生、景観の悪化などは、近隣住民とのトラブルの原因になりがちです。また、老朽化が進んだ空き家は不審者の侵入や放火のリスクも高まり、防犯・防災の観点からも近隣に迷惑をかける可能性があります。
管理の負担
たとえ住んでいなくても、庭の手入れや通気・通水、郵便物の確認など、定期的な管理は必要です。実家が遠方にある場合、その都度足を運ぶのは時間的にも体力的にも大きな負担となります。
固定資産税などの費用
空き家であっても、固定資産税・都市計画税は所有者に課され続けます。さらに、適切な管理がされず「特定空家等」や「管理不全空家等」に指定され、勧告を受けると、固定資産税の住宅用地特例が解除され、税負担が大幅に増えることもあります。加えて火災保険料や修繕費なども継続的にかかってきます。
相続した実家の主な選択肢
放置のリスクを踏まえたうえで、実家をどうするかは主に次の4つの選択肢に整理できます。
自分や家族が住む
将来的にUターンやセカンドハウスとしての利用を考えている場合は、住み続けるという選択肢もあります。ただし、遠方に住んでいる場合は現実的でないことも多く、慎重な検討が必要です。
売却する
管理の手間や税負担から解放されたい場合、売却は有力な選択肢です。ただし、売却には査定・仲介業者の選定・契約手続きなど一定の時間と手間がかかります。また、相続した空き家を売却する際は「空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例」が使える場合があるため、税制面もあわせて確認しておくとよいでしょう。
賃貸などで活用する
売却せずに手元に残したい場合は、賃貸に出して家賃収入を得るという方法もあります。ただし、リフォームや修繕にまとまった費用がかかることや、賃貸管理の手間が発生する点は考慮が必要です。
解体して土地活用を考える
建物の老朽化が激しく、住むにも貸すにも適さない場合は、解体して更地にし、駐車場や売却用の土地として活用する方法もあります。ただし、更地にすると固定資産税の住宅用地特例が適用されなくなり、税負担が増える点には注意が必要です。
兄弟で相続する場合に注意したいこと
実家を兄弟姉妹で共同相続する場合、単独相続とは異なる注意点があります。
誰が管理するのか
相続人が複数いると、「誰が実際に管理するのか」があいまいになりがちです。責任の所在がはっきりしないまま放置され、結果として空き家問題が深刻化するケースも少なくありません。早い段階で管理の役割分担を話し合っておくことが大切です。
売却する場合の合意
不動産を売却するには、原則として相続人全員の合意が必要です。一人でも反対する人がいたり、連絡が取りにくい相続人がいたりすると、売却の手続きが進まなくなることがあります。
共有名義にするリスク
「とりあえず」の判断で実家を共有名義のまま相続すると、将来的に売却や活用をしようとした際に、相続人のさらなる相続(二次相続)によって権利関係が複雑化するおそれがあります。共有名義は一時的な解決に見えても、長期的にはトラブルの火種になりやすいため注意が必要です。
例えば、兄弟2人で実家を共有名義にした場合を考えてみましょう。その後どちらかが亡くなると、その持分は配偶者や子どもたちに引き継がれ、新たな共有者が加わることになります。世代が進むごとに共有者の人数は増え、面識のない親戚同士で売却や管理について話し合わなければならない状況になりかねません。共有名義は、その場では平等で角が立たない選択のように見えても、次の世代に問題を先送りしているだけというケースが少なくないのです。
実家を相続する前から準備できること
実家の相続で困らないためには、相続が発生する前からの準備が重要です。
親が元気なうちに希望を確認する
実家をどうしたいか、親自身の意向を早めに確認しておくことで、相続後の判断がスムーズになります。「売ってよい」「誰かに住んでほしい」など、親の希望を知っておくだけでも、家族間の話し合いの土台になります。
財産状況を把握する
不動産だけでなく、預貯金や借入金などを含めた財産全体を把握しておくことで、相続税の見込みや遺産分割の方針を立てやすくなります。必要であれば、専門家に相談して財産目録を整理しておくとよいでしょう。
遺言などで意思を残す
実家の扱いについて親の意思を明確にしておきたい場合は、遺言書の作成が有効です。誰が相続するのか、売却してよいのかなどを書面で残しておくことで、相続人同士の意見の食い違いを防ぎやすくなります。
認知症になる前なら家族信託という選択肢もあります
親が認知症などで判断能力を失うと、実家の売却や管理は本人の意思確認ができないため、原則として行えなくなってしまいます。成年後見制度を使う方法もありますが、手続きの負担が大きく、自由な財産活用がしにくいという面もあります。
そこで検討したいのが、家族信託です。親が元気なうちに、実家の管理・処分を子どもに託しておく仕組みで、親の判断能力が低下した後も、信託契約の内容に基づき、受託者である子どもが管理や処分を行えるようになります。特に不動産の管理を託す方法として相性がよく、遺言だけではカバーしきれない「認知症になった後の対応」まで見据えられる点が特徴です。
まとめ
誰も住まない実家を相続した場合、何も決めずに放置してしまうと、相続登記の義務化への対応漏れや、固定資産税の負担増、建物の老朽化、近隣トラブルなど、さまざまなリスクが積み重なっていきます。売却・活用・解体など、それぞれの選択肢にはメリットと注意点があるため、家族の状況や実家の状態に合わせて検討することが大切です。
また、兄弟姉妹で相続する場合は、管理責任や売却の合意形成、共有名義のリスクについて早めに話し合っておくことがトラブル防止につながります。可能であれば、親が元気なうちから実家の将来について話し合い、遺言や家族信託などの準備を進めておくことをおすすめします。
後藤司法書士事務所では、相続登記の手続きはもちろん、「実家をどうすればいいかわからない」といった段階からのご相談も承っております。兄弟間の話し合いの進め方や、遺言・家族信託の活用方法についても、お一人おひとりのご事情に合わせてご提案いたします。実家の相続でお悩みの方は、お早めに当事務所までお気軽にご相談ください。