「隣の部屋の方が亡くなって、しばらく誰も気づかなかったらしいんです」
そう話して相談に来られた方がいました。
その方自身は独身で、兄弟は高齢、甥や姪とは年賀状のやり取りをする程度の付き合いだといいます。
「自分に何かあったとき、あの部屋のようになるんじゃないかと思って」
亡くなったこと自体は不動産管理会社が発見して分かったものの、そこから先、遺品の整理や賃貸の解約、親族への連絡は誰がどう動いたのか、結局よく分からないままだったそうです。
配偶者や子どもがおらず、兄弟姉妹も高齢になっている。
親族はいるけれど遠方で、普段ほとんど付き合いがない。
こうした状況では、「財産を誰に残すか」だけでなく、自分ができなくなったとき、そして亡くなった後に、誰が何をするのかまで決めておくことが大切です。
「亡くなった後」の前に、考えておきたいこと
終活というと、遺言書や葬儀の準備を思い浮かべる方が多いと思います。
しかし、身寄りがない方の場合、亡くなる前のことも考えておく必要があります。
病気やけがで入院することになったとき。
認知症などによって、自分で財産を管理することが難しくなったとき。
施設への入所が必要になったとき。
こうした場面では、本人に代わって手続きや契約をする人が必要になることがあります。
「そのときになれば誰かが何とかしてくれる」と考えていると、いざというときに頼める人が見つからないことがあります。
判断能力が低下したら、誰が財産を管理する?
認知症などによって判断能力が低下すると、預貯金の管理や不動産の売却などを本人だけで行うことが難しくなります。
親族だからといって、当然に本人の代わりに財産を管理・処分できるわけでもありません。
判断能力が低下した後であれば、家庭裁判所に申立てをして成年後見人を選任してもらう方法があります。
一方、元気なうちに任意後見契約を結んでおけば、将来判断能力が低下したときに財産管理などを任せる人を、自分で決めておくことができます。
自分がしっかりしているうちに、誰に頼むのかを決めておく。
これは、頼れる家族が身近にいない方にとって、特に大切な終活の一つです。
自宅をどうするかも決めておく
不動産を所有している場合は、自宅を将来どうするのかも考えておきたいところです。
「できるだけ自宅で暮らしたい」「施設に入ることになったら売却したい」「亡くなった後は売却して誰かに残したい」。
希望は人それぞれです。
問題は、判断能力が低下した後では、本人の意思だけで不動産を売却できなくなることがある点です。
成年後見人が選任されたとしても、本人が住んでいた不動産を売却するには、原則として家庭裁判所の許可が必要になります。
元気なうちに、「この家を将来どうしたいのか」を決めておくことで、後になって対応に困ることを防ぎやすくなります。
亡くなった後には、誰かが手続きをしなければならない
冒頭の隣人のケースのように、亡くなればそれで終わりというわけではありません。
葬儀や納骨、病院や施設への支払い、公共料金や携帯電話の解約、賃貸住宅の明渡し、自宅の片付け、遺品整理、郵便物の処理、相続に関する手続き。
やることは一気に増えます。
親族がいれば対応することになるかもしれませんが、「誰がやるのか」を決めていなければ、疎遠だった親族が突然これらを引き受けることになります。
そこで検討できるのが、死後事務委任契約です。
これは、亡くなった後に必要となる一定の事務を、あらかじめ決めた人に依頼しておく契約です。
「亡くなった後のことを誰かに任せておきたい」という方にとって、有力な選択肢になります。

財産を誰に残すかも、元気なうちに決めておく
配偶者や子どもがいない場合、相続人が親や兄弟姉妹になることがあります。
兄弟姉妹がすでに亡くなっていれば、めったに会っていない甥や姪が相続人になる場合もあります。
一方で、「お世話になった友人に残したい」「長年通っている団体に寄付したい」「特定の親族に多く残したい」という希望がある場合もあるでしょう。
こうした希望を実現したいのであれば、遺言書を作成しておくことが重要です。
遺言書がなければ、原則として法律で定められた相続人が財産を相続することになります。
財産や契約の情報も整理しておく
身寄りがない方の場合、財産の存在を知っている人がいないという問題もあります。
預貯金、証券、生命保険、不動産、インターネット上で利用しているサービス。
本人にとっては分かっていても、亡くなった後に第三者がすぐに把握できるとは限りません。
冒頭の隣人のケースも、後になって、どこにどんな財産があったのか分からず、確認に時間がかかったと聞きました。
すべてのパスワードを渡しておく必要はありませんが、利用している金融機関や保有資産の一覧だけでも整理しておくと、後の手続きは大きく変わります。
すべてを一人で準備する必要はない
ここまで読むと、「そんなにたくさん準備しなければならないのか」と思うかもしれません。
しかし、すべての制度を利用する必要はありません。
頼れる親族がいて財産管理を任せたいなら任意後見、亡くなった後の手続きを頼みたいなら死後事務委任、財産の行き先を決めておきたいなら遺言書。
自宅など特定の財産について将来の管理や処分まで考えたいなら、家族信託という選択肢もあります。
大切なのは制度をたくさん使うことではなく、自分ができなくなったとき、そして亡くなった後に、誰に何を任せたいのかを整理することです。
「身寄りがない」からこそ、自分で決めておく
身寄りがないからといって、すべてを誰かに任せなければならないわけではありません。
むしろ、元気なうちであれば、自分の希望を自分で決めることができます。
判断能力が低下したら誰に財産管理を任せるのか。
自宅をどうするのか。
亡くなった後、誰に何を頼むのか。
財産を誰に残すのか。
こうしたことを一つずつ整理しておけば、冒頭の相談者が案じていたような状況を、自分自身については防ぎやすくなります。
終活は、亡くなるための準備ではありません。
自分の希望を、自分で決められるうちに決めておくための準備です。
高砂市・加古川市で、身寄りがない方の終活、遺言、任意後見、家族信託、死後事務委任などについてお考えの方は、後藤司法書士事務所にご相談ください。