「長男に自宅を相続させる」
そう遺言書に書いていた父親がいました。
その数年後、父親は足腰が弱くなり、施設に入居することになりました。
自宅に戻る予定もなくなったため、思い切ってその家を売却しました。
「遺言書に長男へと書いてしまっているけど、もう売ってしまって大丈夫なんだろうか」
父親はふと不安になり、相談に来られました。
「遺言書を書いたのだから、勝手に売ることはできないのでは」「売却したら、遺言書そのものが無効になるのでは」。
そう考える方もいらっしゃいます。
結論からいうと、遺言書を書いた後でも、本人が生きている間は、自分の財産を自由に処分することができます。
ただし、売却した財産については、当然ながら、遺言どおりに相続させることはできなくなります。
遺言書を書いていても、生きている間は財産を処分できる
「長男に相続させる」と書いた遺言があるからといって、父親が自宅を売却できなくなるわけではありません。
遺言は、本人が亡くなった後の財産の行き先を定めるものであって、生きている間の財産の処分まで制限するものではありません。
そのため、遺言書を作った後に、その財産を売ったり、贈与したり、使ったりすることもできます。
売ってしまったら、「長男に相続させる」という部分はどうなる
では、先ほどの父親が、自宅を売却した後に亡くなったとします。
遺言書には「自宅を長男に相続させる」と書かれていますが、亡くなった時点では、その自宅はもう父親の財産ではありません。
この場合、売却した自宅そのものを長男が相続することはできません。
民法には、次のような規定があります。
第1023条(前の遺言と後の遺言との抵触等)
① 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
② 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。
この2項に出てくる「生前処分その他の法律行為」にあたるのが、まさに今回のような、遺言に書いた不動産を売却する行為です。
つまり、自宅を売却したことによって、「自宅を長男に相続させる」という遺言の内容と抵触し、その部分については、遺言を撤回したものとみなされます。
だからといって、遺言書全体が無効になるわけではありません。
遺言書に他の財産についての記載があれば、その部分については別に効力が残ります。
「売ったお金を長男に相続させる」ことになる?
ここで、もう一つ疑問が出てきます。
父親が自宅を売却して、その代金として2,000万円を受け取っていたとします。
「もともと長男に自宅を相続させる予定だったのだから、売却代金2,000万円を長男が相続するのでは」と思うかもしれません。
しかし、自宅を売却したからといって、その売却代金が当然に「自宅」に代わるものとして長男に渡るわけではありません。
自宅と、その売却によって得た現金は、別の財産です。
「自宅を売ったから、その代金も長男が相続する」と当然に決まるわけではありません。

売却代金についても指定したいなら、遺言の見直しが必要
もし、自宅を売却する可能性があるのであれば、遺言書の内容も見直したほうがよいでしょう。
「自宅を長男に相続させる」という遺言を作っていたものの、その後、自宅を売却したのであれば、「自宅を売却した場合、その売却代金を長男に相続させる」など、現在の財産状況に合わせて遺言を書き直すことが考えられます。
実際にどのような書き方をするかは、財産の内容や他の相続人との関係によっても変わるため、単純に「売却代金を長男に」と書けば十分とは限りません。
遺言を書いた後に「財産の中身」が変わることは珍しくない
遺言書を作ったときには、自宅、預貯金、株式、投資信託、その他の不動産など、さまざまな財産を持っていたとしても、その後何年、何十年と経てば状況は変わります。
自宅を売却した、土地を売却した、株式を売却した、預貯金を使ってしまった、別の不動産を購入した、といったこともあるでしょう。
遺言書は、作った時点の財産だけを永久に固定するものではありません。
財産の内容が大きく変わったときには、遺言書も一度確認することが大切です。
財産を売っただけで、遺言書を書き直さなければならないわけではない
ここは誤解しないでいただきたいところです。
遺言書に書いた財産を売ったからといって、必ず遺言書を作り直さなければならないわけではありません。
売却した財産について特に誰かに渡したいという希望がなくなったのであれば、そのままでも構いません。
遺言書に書かれている他の財産については、そのまま効力が残ります。
ただ、「この財産を長男に渡したい」「この預貯金は次男に渡したい」など、明確な希望がある場合には、現在の財産状況と遺言書の内容が合っているかを確認したほうが安心です。
冒頭の父親も、自宅を売却したことで当初の遺言の内容と現在の財産状況が変わったため、遺言書を見直すことにしました。
「遺言を書いたから、その財産を残しておかなければならない」は間違い
遺言書を作ると、「そこに書いた財産は、亡くなるまで残しておかなければならない」と思ってしまう方もいます。
しかし、そうではありません。
遺言者は、亡くなるまで自分の財産を自分で管理し、必要に応じて処分することができます。
自宅を売ることもできますし、預貯金を生活費に使うこともできます。
大切なのは、遺言書を作った後に財産の内容が変わったとき、その変化を踏まえて遺言の内容を確認することです。
高砂市・加古川市で遺言書について相談したい方へ
「以前作った遺言書があるが、その後に財産を売却した」
「遺言書を書いたときと、財産の内容が大きく変わった」
「今の財産状況に合わせて遺言書を見直したい」
このような場合には、現在の財産と遺言書の内容を一度確認してみることをおすすめします。
後藤司法書士事務所では、高砂市・加古川市を中心に、遺言書の作成や見直しについてご相談をお受けしています。
以前作成した遺言書をお持ちの場合も、その内容を確認しながら、現在の家族関係や財産状況に合った遺言について一緒に考えていきます。